然灯書店

フラワー

第1話


 2列に並ぶ本棚の、背表紙の文字たち。波のように消えては、木材の目を這ってはまた戻る。黒い文の鋭さだけが印象に残って、紙の香りが雨と同じく床へと消えた。下へ向かいつつ、その場に踏みとどまったタイトルが、木曜日の雨を頼りに流れ着く。待ち続けていた傘の色合いに、薄い本の題名は取りついて、一つそのまま無くなった。音がして、ふと見上げた時に、少しの声が聞こえる本屋の間取りは、気のせいだった月日のように閉じたまま。そう、時計の置かれた巣箱の思いが、棚に横たえ眠っている。愛しい並びの脈をとり、熱に浮いた透明な廊下の先で、明日の陽が垂れてくるまでの夜。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る