待ち、去る
にょむ
夏、駅
クラスの打ち上げがあった日、みんなと別れた後、改札の前で集まって話をしている君を見た。別に何を言うわけでもなく、通り過ぎて改札を通った。でも、もしかしたら、君が話を終えてホームまで来て一緒に帰れるんじゃないかと思い、何故か来た電車には乗らなかった。多分、三本ぐらい目の前を通っていった。
しばらく経って、君が階段を登ってくるのが見えた。肩を弾ませて。僕は嬉しかった。めちゃくちゃ嬉しかった。でも自分から話しかける勇気なんて僕には無く、僕は待った。待ってしまった。きっと来てくれるだろうという思い込みが、僕をレールに乗せた。
気づくと、二つ隣のドアの前に君は立っていた。虚心感に襲われた。もし、止まって後ろから話しかけてくれたら、近づいて来てくれたら、そんなタラレバに心を泳がせていた自分が馬鹿みたいだった。電車を三本も見る意味なんてなかった。別に少しでも話せればよかっただけなのに。久しぶりにこんな気持ちになった。あの雨が降る日と同じ匂いがする。あの夜と同じ寒さがする。二つ先のドア、ちょうど向かい合ってドアの前に立つ型になった。偶然にも顔をあげたら目が会うほどの距離。たった20メートルほどの距離なのに、こんなにもフルマラソンのような長さに感じてしまう。この微妙な距離感が、なんか、ものすごく、僕と君の距離を表しているようで嫌だった。後ろを見てもよかった。でも、目の前には君がいる。目なんてそらせるわけがない。そんな葛藤はいつもと変わらない。
スマホを触る君。ドアの横で寄りかかっている僕。
「高円寺〜高円寺です。お降りのお客様は足元にお気をつけください。高円寺です。」
君はここで降りる。別に明日も会えるのに、なんでこんなにも悲しいのだろう。自分の弱さが嫌になった。この暗い夜の空もたまには光で満ち溢れてもいいのに、、、
家に帰って飲んだ、三ツ矢サイダーがいつもより苦かった。そんな気がした。こんなにも胸がいたい夜はない。
君へ
これをもし見た君が、どんな気持ちになるかわからない。でも、たとえ時が過ぎても僕は今日の自分の臆病さを忘れはしない。そして
“君が好きだ”
待ち、去る にょむ @nyomu
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