修学旅行のはずが突然異世界に！？

第199話 皇帝との謁見

　翌日。

　帝都の防壁を通過する〝剣帝〟の部隊の姿があった。

　部隊には豪奢な剣の紋章の旗が掲げられていた。

　民衆はその旗を見て一斉に跪く。

　帝国の守護者である〝帝天十傑〟の一翼だ。

　他の町よりも速やかに膝を突いた。

　慣れているというのもあるのだろうが、一番恩恵を受けているからなのだろう。

　帝都にいるのは、ほぼすべてが純粋なルダマン帝国民だ。

　畏怖と敬意がそうさせる。

　〝剣帝〟のエリも部下たちも見慣れた風景だからか、目的地まで馬を進めた。

　目的地は帝都の中央にある皇城。

　ルジアス・ルダマン皇帝陛下に謁見するためだ。

　城門の近くまで来ると、エリは馬の脚を止めた。

「ここまででいい。スレイカ以外は兵舎で待機しろ」

「了解しました」

　スレイカとエリを残して、〝剣帝〟の部隊が離れていく。

　兵舎といっても〝剣帝〟の部隊専用の兵舎だ。

　帝都内には軍事区画があり、そこに〝帝天十傑〟の各部隊の兵舎が存在する。

　その兵舎の規模は町の領主が住む城並みだ。

　彼らは先にそこで休憩できることを内心で喜んでいるかもしれない。

「行くわよ」

「はい」

　エリとスレイカは城門を通り、皇城へ入った。

　事前に伝令を走らせてルジアス皇帝陛下に謁見の依頼はしてあった。

　話が伝わっていたようで待つ時間もほとんど無く、謁見が叶った。

　エリたちが謁見の間に入ると、玉座に座るルジアス皇帝とその隣に宰相のセバルタ・ムジーカが立っていた。

　エリたちはある程度近づくと、片膝を突いて頭を垂れた。

「二人とも面を上げよ」

　ルジアス皇帝の許可で二人は顔を上げる。

「それで何用で謁見を願った？」

「私がここまで来る間に起きたことについてご報告させていただき、今後の動きについてご判断いただきたいのです」

　エリはこれまでの出来事を説明した。

　バズール男爵が死去したこと。

　ザーガスにより、スティルド王国の砦を奪取したが、証拠を隠蔽して手放すことになったこと。

　ザーガスとその部隊の全滅について。

　そして、デルクライル子爵領での出来事。

　これらをすべて報告した。

「バズール男爵の件についてはすでにこちらまで報告が来ている。それに対して現在は調査中だ。ザーガスの件も複数の貴族が関わっており、処分内容を検討しているところだ。現状、スティルド王国と事を構えるつもりはない。〝剣帝〟の行動は正しかったと判断した」

　宰相のセバルタが現状について説明を続ける。

「ただし、デルクライル子爵領内のことについてはまだこちらには届いていない情報です」

　未報告の情報のためか、セバルタはルジアス皇帝に判断を仰ぐ。

「〝剣帝〟、君の要望はなんだ？」

「ルダマン帝国に反乱の火種が出てきております。こちらを直ちに沈静化させないと、被害が拡大しかねません。反乱沈静化に私と私の部隊が干渉することの許可をいただけないでしょうか」

　謁見の間に沈黙が流れる。

　静寂を破ったのはルジアス皇帝だった。

「わかった。〝剣帝〟の干渉を認めよう。セバルタ、書状を用意しろ」

「承知しました」

　セバルタはルジアス皇帝に一礼してから書状を作成するために奥の部屋へ下がった。

「許可していただきありがとうございます」

「構わない。それよりもその反乱軍は何を目的に動いていると思う？」

「目的はわかりませんでした。顔も隠していたため、どんな人間が指揮しているのかもわかりません」

「そうか」

　ルジアス皇帝はその後は何も口を開かなかった。

　しばらくすると、セバルタ宰相が書状を持ってやってきた。

「こちらになります」

　一度、ルジアス皇帝に目を通してもらい、問題ないことを確認する。

「問題ない」

「では、こちらを〝剣帝〟へお渡しします」

　セバルタはエリの前まで来て、書状を渡した。

「これより、〝剣帝〟には反乱への沈静に干渉することを許可する」

「承りました」

　エリは書状を受け取り、一礼して謁見の間を退出した。

　謁見の間を離れるとスレイカが口を開いた。

「良かったですね。何事もなく許可がもらえて」

「ええ、もっと色々と条件を言われるかと思っていたのだけれど、何もなかったわね」

　エリの想定では領主の許可をもらう必要があるなどの面倒な条件を付けられるかと思っていたが、その心配も杞憂だった。

「これで反乱への対応に入れますね」

「そうね。隊員には2日間の休養と物資調達を済ませるように伝えてちょうだい。3日後の朝には逃がした反乱軍を追うわ」

　すぐに追いたいが、部隊は疲れも残っているだろう。

　これから反乱軍と戦闘になるのだ。

　できるだけ回復させたとエリは思っていた。

「了解しました。エリ様はこれからどうされますか？」

「帝都に戻ってきたから、少し寄っていくわ」

「わかりました。気を付けてください」

　スレイカはそう言って先に〝剣帝〟の部隊が待つ兵舎へ向かい、エリは目的の場所に足を向けた。