第157話 透明の男

「どうせ……近くで見ているの……だろう」


 ザーガスはそう呟くと地面に倒れた。


 生命活動の維持に使用していたマナを全て先程の攻撃に使った結果だ。


 もう動く気配はない。


 琉海はザーガスの首元に手を当て、脈がないことを確認した。


「死んだか……」


 さすがに心臓が止まってまで動きはしないだろう。


 琉海が息を細く吐き、体から力を抜いたとき――


「誰ッ!?」


 マルティアが声を上げた。


 マルティアの視線の先には木の家があった場所。


「姿を見せなさい! 出てこなら撃つわよ」


 マルティアは瞬時に光の矢を精霊術で十数本出現させる。


 マルティアはかなり警戒しているようだ。


 ただ、琉海には何も見えない。


「さすがに誤魔化せないですか」


 姿の見えない場所から聞こえてくる声。


「誰だ?」


「それはお答えできかねます。それにもう用は済みましたので、私はこれでお暇させていただきますよ」


「逃がさない!」


 マルティアは空中に浮く光に矢を放つ。


 着弾した場所から土煙が舞うが、マルティアは眉をひそめていた。


 数秒待つが何も変化は起きなかった。


「マルティアさん、あそこに誰かいたんですか?」


「はい。ですが、逃げられてしまいました……」


 マルティアには琉海には見えない者が見えていたようだ。


 そして、見えていた人物がもう一人いた。


「ルイはまだ精霊術師になりたてだからしょうがないわよ」


 エアリスだった。


「何が見えたんだ?」


「フードを被った男ね。ちょっと薄気味悪かったわね」


「そんな奴が……」


 一切見えなかった琉海はフードの男がいたと言われる場所を見つめた。


「そんなに気にしなくても大丈夫よ。一発は入れておいたから」


「一発?」


「ええ、致命傷ではないと思うけど、深手は負っているはずよ」


 エアリスはそう言っていつの間にか《創造》した短剣を片手で軽く投げて遊んでいた。


 おそらく、マルティアの光の矢に紛れて短剣を投げていたようだ。


 もしかしたら、光の矢も何本か当たっているかもしれない。


「この辺りを探せば、その男を見つけられないか?」


「うーん、難しいと思うわよ。気配を消すのが上手かったし、私たちが見つけることができたのは、この周辺に滞留する自然力に揺らぎがあったからよ」


 エアリスが言うには、その揺らぎがあったから、わかったようだ。


「ほとんど完璧に姿を隠していたから、逃げに徹した相手を見つけるのは難しいと思うわ」


「それほどか……でも、そんな相手をよく見つけたな」


「あそこで何かしてたのよ。そのときに揺らぎが発生したのよ」


 エアリスが指差した場所はマルティアの家があった場所だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る