第153話 数日前

 数日前。


 〝剣帝〟率いる部隊は、正体を伏せてバズール男爵が統治する都に向かっていた。


 エリの目的は、現在の帝国への疑問の払拭だった。


 その鍵を握るのがバズール男爵だ。


 しかし、辿り着いた都は騒然となっていた。


 騒がしい民たちから話を聞き、エリたちは目を見開く。


「城が燃えただと?」


 エリたちが城へ向かうと、そこには灰となった城の成れの果てがあった。


 情報を探るとバズール男爵は燃え盛る城の中にいたらしく、生存は望めないとのことだった。


 貴族が命を狙われることはある。


 誰かに恨みを買うこともある。


 しかし、不可解なのは城が燃え、その主と住み込みで働いていた侍従たちが亡くなり、それ以外に被害がないことだった。


 城周辺にも争った跡も見当たらなかった。


「これはどういうことでしょう?」


 スレイカは首を傾げた。


 バズール男爵お抱えの警備兵や門番は無傷。


 証言によると突然、城内で炎が燃え盛り、城を包み込んだようだ。


 警備兵たちは何もできず領主を失ったことを悔しがっていた。


 バズール男爵の人柄は良く、周囲にも信頼されている人だった。


 警戒を怠っていたわけでもなく、ただ相手が上手だったというだけ。


 ここから推測できるのは、犯人が警備や門番の目を掻い潜れる実力者であること。


 これだけでも犯人は絞り込めるだろう。


 だが、エリは犯人――いや、黒幕を数人まで絞り込んでいた。


 〝剣帝〟という最上位の初号を持つため、情報はそこらの貴族よりも多く得ることができる。


 特に帝都内ではその効果は絶大だ。


 その中で、バズール男爵が皇帝お抱えの参謀であるジャック・バトラーを探っていたという情報があったことを思い出す。


 現在の帝国の動きはあまりにも活発過ぎて不可解なことが多い。


 小国を攻め落とした後、すぐさま隣国に攻め入る。


 占領した領土を盤石にする前に別の国を攻める。


 ここまで好戦的な動きは現皇帝では初めてのことだった。


 大きく変化が起きたのはジャック・バトラーが皇帝の側近になってからだ。


 皇帝が世界統治を目的としていることは知っているが、勝ち取った領土を疎かにする人ではないことも知っている。


 攻め入った者が所有者になるとき、民の反発が大きいのを理解しているはずだ。


 バズール男爵もそこを疑ったのだろう。


 そして、命を落とした。


 何か掴まれては困る情報を手に入れたのだろうか。


 エリはその後も調査したが、確信に至る情報は得られなかった。


 〝剣帝〟であることを明かせば、もっと多くの情報を入手することができたかもしれないが、ジャック・バトラーに動きを感知される可能性があった。


 限られた情報を精査していく中、ひとつの情報に目を向けた。


 それは、ザーガスが占拠したスティルド王国の砦を守る依頼が来ていたことだ。


 スティルド王国の砦に近いバズール領に依頼が来ているのは不自然ではない。


 しかし、暗殺した領主に依頼を出すだろうか。


 疑問が残る。


 ザーガスがジャック・バトラーと繋がりが深いこともエリは知っている。


 砦で何か起きる可能性は大きい。


「行ってみるか」


 実際に行ってみれば何かわかるかもしれない。


 エリはこの情報を元にバズール男爵の代理として砦に向かった。

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