第145話 予想外の援軍

 ザーガスが近づくと、〝剣帝〟は口を開いた。


「貴様がここの指揮官か?」


「はい。お初にお目にかかります。私がここの指揮官をしているザーガスと申します」


「ザーガス。我らの馬と兵を休ませたい。どこに連れて行けばいい?」


「では、私の部下に案内させます」


 ザーガスは自分の指揮下の者を数人呼び、〝剣帝〟たちの馬を馬小屋として使っている場所に案内させる。


 〝剣帝〟は馬から降り、自分の馬を背後にいる部下に任せる。


 〝剣帝〟ともう一人を残し、馬を引き連れて馬小屋へ向かった。


 そして、残ったのは、またもや女性だった。


「ああ、彼女は私の副官をしてくれている」


 ザーガスが視線を向けていたことに気づいて紹介する〝剣帝〟。


「はじめまして。スレイカ・シブラウスと申します。エリ様の副官をしております。よろしくお願いします」


 〝剣帝〟――エリ・ルブランシュの副官であるスレイカは栗色の髪を肩口まで伸ばした女性だった。


 ザーガスは一礼して応えた。


「それで、こちらにはどのようなご用件で?」


 ザーガスが聞くとエリではなく、スレイカが答えた。


「ここでは、あまり話さないほうがいい内容かと思いますので、どこか別の場所にお願いできませんか」


 何か事情があるようだ。


「わかりました。こちらに」


 ザーガスはそう言って、部屋へと案内した。


 ザーガスが案内したのは、自身が執務室として使用している部屋だった。


 〝剣帝〟ルブランシュとスレイカを執務机の前に設置してあるソファに座ってもらうように促す。


 そして、その対面にザーガスは腰を下ろした。


「それで、こちらにはどういったご用件で?」


 前置きもなく、ザーガスは本題に入った。


「私たちがここに来たのは手伝いに来ただけだ。貴様がここへ召集していた者がいるだろ。その代理だと思ってくれ」


「代理ですか……」


 ザーガスは〝剣帝〟が言おうとしていることを推測する。


 たしかにこの砦に召集した貴族がもう一人いる。


 バズール男爵だ。


 彼はまだ来ていない。


 この砦に一番近いから、そろそろ来てもいいころだと思っていたが、まかさ〝剣帝〟が代わりに来るとは思ってもみなかった。


「バズール男爵とは、お知り合いなのでしょうか」


「ああ、少しな。あっちも立て込んでいるようだったから、私が代わりに来た。話によれば、貴様たちがここを留守にしている間の留守番をしていればいいとのことだったが」


 〝剣帝〟の説明はバズール男爵に話を持ち掛けたときに話した内容と一致する。


(代理を騙(かた)ってここに来たわけではなさそうだ)


 親切心で来たとも思えないが、この砦を〝剣帝〟が守ってくれるというのなら、これ以上の人選はないだろう。


「そういうことでいたら、お願いします」


 ザーガスが頭を下げた。


「任せてもらおう」


 〝剣帝〟はそう言って立ち上がる。


「私たちが使用していい部屋はどこだ?」


「案内させます」


 ザーガスはすぐさま部屋の外に立つ兵を呼び、〝剣帝〟たちに空いている部屋に案内させるように言いつけた。


 〝剣帝〟とその副官の二人は兵に案内されて部屋を後にした。

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