第95話 暗殺失敗と次
琉海の勝利に観客たちが盛り上がる。
その光景を眺めていたレイモンドは無言で机を蹴り飛ばした。
ガタンッ! という音が室内に響き、舞台上で動く気配のないウルバを冷たい目で見下ろした。
「使えない奴だ」
何が殺しのプロだ。
期待外れだった。
「父様には、使えなかったと報告しておけ。それとあの使えない奴は地下に縛っておけ」
扉の前に立つ執事にレイモンドは命令する。
「畏まりました」
執事は一礼して部屋を出た。
「人間としては使い物にならなかったんだ。精々、化け物にして使ってやる」
レイモンドは懐にしまっていた瓶を取り出す。
その瓶には黒紫色の液体が入っていた。
無法者たちを捕まえて飲ませたときのモノよりだいぶ色が濃い。
昨夜、屋敷にフードの男を招き、新しいモノを購入した。
それも原液に近いものらしく、効果は前回の数倍。
それに伴い、値段も前回の数倍で購入させられた。
だが、レイモンドにとって値段は関係なかった。
十数倍の値段を吹っ掛けられていても、買ったかもしれない。
購入時、フードの男が注意事項を教えてくれた。
「レイモンド様、その液体は使い手を選びます。できるだけ、野心のある方に飲ませることをお勧めします。それと、これはサービスです」
フードの男はそう言って、前回購入したときと同じ液体を数個置いていってくれた。
純度の薄い方は適当なやつを捕まえればいいだろうと思っていた。
使う相手のリストにウルバも入ったのだろう。
それよりも、この高純度の液体を誰に使うかレイモンドは悩んでいた。
「野心のある者か……」
レイモンドの頭の中に何名かの顔と名前が思い浮かぶ。
しかし、それらは高名な貴族が多く、実害があれば騒ぎを起こした犯人を見つけようとするはず。
それに比べれば貧乏貴族や平民なら、その心配はない。
ただ、平民は純度が薄い方とはいえ、使用した者を十数人ほど琉海に差し向けたが、無力化された。
この結果から低能な平民より、高名な貴族の誰かに服用してもらった方が効果が高そうだと判断していた。
そして、一番重要なのは、その服用した者が自分の思い通りに行動してくれること。
レイモンドの狙いは琉海の抹殺。
明日には、大会が終わる。
大会が終わる前にどうにかしたいと考えている。
時間もそんなにない。
「さて、どうするか……」
レイモンドは瓶の液体を見つめながら、飲ませる相手を思案する。
悩ましそうに言っているが、その口元には薄い笑みが浮かんでいた。
純度が高く効果も前回の数倍。
期待で笑みを隠すのは難しかった。
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