第90話 暗殺者

 琉海の試合の後にもう1試合が行われ、6人が出揃った。


 勝ち上がった6人が出揃った後に再び組み合わせが発表される。


 琉海の相手はディバル公爵家から選出されたウルバ・ダズレイだった。


 前夜祭のパーティーで多少の因縁ができたディバル公爵家の代表者と琉海の試合が決まった。


 この試合を好機だと考える人間がいた。


 その者は琉海との試合前にウルバを個室の観戦室に呼んだ。


 ウルバが観戦室の扉をノックすると――


「入れ」


 中から若い男の声が聞こえてくる。


「なんの御用でしょうか」


 ウルバは扉を開けて一礼する。


「次の試合で殺してほしい人間がいる」


 室内で待っていたのはレイモンドだった。


 レイモンドはディバル公爵家の子息。


 ウルバの雇い主の息子だ。


 雇い主本人ではないが、断りにくい。


「次の試合と言うことは、私の対戦相手ということでしょうか」


「そうだ」


 レイモンドの返答にウルバは黙考する。


 ウルバはレイモンドの父親――グラル・ディバルに仕えている。


 主に暗殺など、殺しの任務を遂行してきた経験の持ち主だった。


 グラル・ディバルは、権力を高めることに貪欲な男で、ウルバをこの大会に送り込んだのも、邪魔になりそうな貴族に仕える騎士を殺し、力を削ぐことを目的としていた。


 本来はグラルの命令で動くのだが、レイモンドがそれを利用しようとしていた。


「グラル様には、承諾を頂いているのですよね」


 ウルバは目を細めて真偽を確かめる。


「ああ、父さんにはちゃんと言ってある」


 レイモンドはその視線をどうとも思わず、平然と回答する。


 数秒間の沈黙が観戦室を支配するが、ウルバが口を開いた。


「でしたら、構いません。それが私の仕事ですから」


 ウルバはそう言って退室しようとすると、レイモンドに呼び止められた。


「わかっていると思うが、どんな手を使って殺しても構わないからな」


「畏まりました」


 ウルバはそう言って、舞台に向かう。


 殺気を放つウルバの背中を見て、レイモンドは薄く笑った。


「これであいつも終わりだ」


 ウルバの任務遂行確率は100%。


 グラルの命令で逃した人間は一人もいなかった。


 この日が奴の命日となる。


 どんな手を使ってでも殺してくれるだろうとレイモンドは喜々として観戦する。


 その姿を老齢の執事は悲しそうに見つめていた。


 執事はレイモンドが嘘を吐いていることを知っていた。


(私怨でウルバを使った事がグラル様に知られたら、大変なことになるというのに……)


 故意に殺したことが判明しないことを祈るばかりだった。

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