第66話 推測と予想外

 ティニアが部屋で悶えている頃、琉海は静華とエアリスと一緒に部屋にいた。


 エアリスはソファに寝転がっており、向かい側のソファに琉海と静華が座っている。


「俺と握手していたあの男、エアリスはどう思った?」


「遠目で見ていたけど、魔力はシズカよりちょっと少ないかな」


「率直に聞くけど、俺があの男と戦ったら、勝ち目はどのくらいだと思う?」


「うーん、あの人がどういう戦い方をするかわからないし、トランサーだったら、その能力次第で強さが変わるかもしれないけど、今わかっていることだけで比べるなら、ルイが勝てる確率は八割ってところかしらね」


「えっ、そんなに!?」


 静華が驚き、声を出す。


 琉海も驚きはあったが、おそらくそのぐらいだろうとも思っていた。


 琉海はあの握手の時、強化の出力を10%以下しか出していない。


 たぶん、あの男はあれが本気ではないにしても、精々50%ぐらいの力は使っていたと思う。


 感じた魔力から計算した身体強化の出力を推定しただけだから、なんの当てにもならないけど。


「驚くことじゃないわよ。シズカも琉海と戦ったことがあるからわかると思うけど、ルイの使っている精霊術は普通の魔法より出力が数段上なのよ。同じ魔力量でも、マナを生成できる人間とできない人間では力の差は歴然だわ」


「でも、琉海君の魔力ってそんなに高いように感じないのよね」


「ああ、それはパーティーでも言われたな」


 琉海はレイモンドに言われときのことを思い出していた。


「それは、ルイが半分精霊みたいな状態だからだと思うわ」


「大怪我したときに復元した副作用で、半分精霊みたいな状態なんだっけか」


 琉海の怪我を直してくれたエアリスの当時の言葉を思い出した。


「そうよ。人間は精霊を認知する力がほとんどないの。だから、見えるように実体化するのに、多くのマナが必要になるんだけどね」


「え? でも最初から見えていた気がするけど」


 エアリスの言葉に琉海は首を傾げた。


「ルイは怪我を治すために私と契約して契約者になって後だったから、見えたのよ。契約者じゃなくても魔力が高く素質のある人間ならたまに見える人もいるけどね」


「なるほどね」


「つまり、琉海君は半分精霊だから、魔力が少ないってこと?」


「正確に言えば、魔力が少なく見えてしまうって感じかしら。人間が魔力を感知するのは、体の全体から溢れ出す魔力を察知して、それを自分自身の物差しで測ることで総量を定めているのよ。だから、琉海は体の半分以上が精霊術で構成されたもののせいで、周囲が察知できる魔欲量が少なく感じるのよ」


 エアリスの説明に琉海は「なるほど」と頷く。


「ちなみに、ルイの魔力総量はシズカの四倍以上よ」


「「四倍以上!?」」


 静華と琉海の声が重なる。


「え、なんで琉海君が驚いているの?」


「いや、自分の魔力の総量なんてわからないですから」


「わからないの?」


「それは無理もないわよ。まだ、精霊術を覚えて一ヵ月も経っていないし、四倍以上と言ったけど、私が測れる魔力量はそこが限界なだけで、もっと多いと思うわ。魔力に敏感な精霊でこれなんだから、自分自身の魔力とはいえ、人間には膨大過ぎる魔力総量はわからないんじゃない」


「はあ、すごいわね」


 静華はクリューカに魔力のことや魔法のことを一通り教わっている。


 クリューカに魔力の多さを褒められた静華の四倍以上。


 クリューカが知ったら卒倒するだろうと静華は思った。


「話を戻すけど、それだけの差があると、奇策を用いて、ルイの意表を突くぐらいしかできないと思うわ。だから、ルイはどんな状況でも平常心でいれば勝てるんじゃない」


「ありがとう。参考になったよ」


「どういたしまして」


 そのあとも少し雑談をして、解散となった。

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