第51話 同行者
「私は、ティニア・スタント。スタント公爵家の長女です。助けて頂きありがとうございます」
ティニアは綺麗な姿勢で一礼した。
「いえ、通りかかっただけなので、気にしないでください」
「いえ、そんなことはできません。何かお礼ができればいいのですが……」
ティニアは顎に手を添え、考える素振りをする。
そうしていると、琉海の後方から馬車がやってくる音が聞こえてきた。
馬車は止まり、静華とエアリスが降りてくる。
静華は琉海の元へ駆け寄る。
「無事みたいね」
静華は心配していたようで、琉海の全身を見る。
「怪我はしていませんよ」
「だから、言ったじゃない」
後から来たエアリスが自慢げに言った。
「本当によかった」
ホッと息を吐き、無事であったことに安堵する静華。
それだけ、あの狼の魔物にはトラウマを植え付けられたということなのだろう。
「あの……お知り合いなのですか?」
ティニアが琉海と静華に話しかけてくる。
「そういえば、会話の途中でしたね。俺――私は琉海と申します。彼女たちは私と共に行動をしている者で、静華とエアリスです」
琉海はティニアが貴族であることを意識し、無礼にならないよう、映画などを見て培った口調や仕種を真似て、できるだけ丁寧に話した。
「ご丁寧にありがとうございます。改めて、私はティニア・スタントです。彼女は私の側近であり、近衛騎士のアンジュ・エリアントよ」
女騎士のアンジュは一礼するだけだった。
「話を戻しますね。ルイ様には、命を助けていただいたので、何かお礼をしたいと思うのですが、現状ですと、何もお返しすることができなくて……」
ティニアは魔物によって破壊された馬車に視線を向けた。
馬車の車体はまだ何とか形を成している。
動かそうと思えば動くだろう。
しかし、魔物に殺され、原動力の馬がいない。
彼女たちをここに置いてくこともできるが、貴族を無下にして後々面倒事になるのは避けたい。
それも、琉海たちが向かっているのは、貴族の集う王都だ。
貴族のティニアを助けることで、さらに恩を売ることもできる。
琉海はメリットとデメリットを天秤にかけ――
「では、一緒に乗っていかれますか? 私たちの目的地は王都ですけど、それでよろしければ」
琉海はティニアに提案した。
「よろしいのでしょうか?」
「ええ、ちょっと手狭になってしまいますが、構いませんよ」
ティニアは一度、アンジュに視線を向けてから数秒のアイコンタクトの後、琉海に戻した。
「ではお願いします」
「わかりました。荷物をあちらに運びましょうか?」
「いえ、荷物はないので大丈夫です。王都に着きましたら、こちらに兵を派遣するので、馬車も大丈夫ですよ」
ティニアはそう言ってアンジュと一緒に琉海たちの馬車に向かった。
琉海はすごいことになったなと思いつつ、静華たちと一緒に二人の後を追った。
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