第25話 精霊術の習得
村は凄惨な状態になっていたが、食料は奪われていなかった。
村の人たちをそのままにしておくことができず、琉海は村の人たちを火葬する。
燃える火を見つめながら、琉海は決意を燃やした。
翌日から、エアリスに精霊術を教えてもらうことになった。
場所は村の近くの開けた場所。
「それじゃ、まず精霊術と魔法の違いを教えるわ」
魔法と精霊術に関することをエアリスに教えてもらった。
エアリスが言うには、魔法と精霊術は別物のようだ。
魔法は魔力で物質を具現化させたり、現象を起こす方法である。
精霊術は自然力と魔力の二つを合わせたマナという混合エネルギーを使用して発動させるらしい。
自然力は土や木や水といった自然物質から生み出されるものらしい。
手段が違くても、同じ現象を起こすことができる。
しかし、精霊術のほうが数倍の威力があるらしい。
自然力を混ぜている分、世界に事象を具現化するのに親和性が高く、威力が高いようだ。
精霊術は難易度が高いものばかり。
そして、精霊と契約をしないと使用することができないため、入口に辿り着くまでの難易度がさらに高くなる。
精霊は精霊術を使える資質があるのも加味して契約するそうだ。
「ちなみに、精霊には魔力を生成することができないのよ。人間は自然力を操ることができないけどね。この二つができて、マナを作れるのは、精霊と契約した人間だけ」
「つまり、俺とエアリスならマナを作れるということか」
「ええ。できれば、ルイだけでマナを生成するぐらいになってほしいわね。そうすれば、私は精霊術の構築に回れるから」
「ああ、俺がやれることは全部やるよ」
琉海は真剣な顔になり頷く。
それを見てエアリスも口元を緩めた。
「そう。なら、まずは自然力を感じられるようになってもらわないとね」
エアリスはそう言うと、琉海の目を手で塞ぐ。
「幸いにもルイは私の力で復元された物質が体内で一体化させているおかげか、半分は精霊みたいな状態だから、自然力を可視することはそんなに難しくないと思うわ」
エアリスはそう言い終わると、塞いでいた手を離す。
「どう? 見える?」
琉海は瞼を開く。
すると、地面から湯気のようなもの立ち昇っているように見えた。
「これが、自然力?」
「見えているようね。そしたら、次はその自然力を掌に集めるように念じてみて。半分精霊のルイなら、自然力への干渉もしやすいと思うわ」
琉海は右の掌に集まるよう念じる。
すると、湯気のようなオーラがゆっくりと集まりだす。
次第に掌に拳大の自然力が集まった。
「いい感じね。じゃあ、それを体に取り込んで体内で循環させてみて。これはイメージが重要よ」
エアリスに言われた通りのイメージで自然力を体内に入れていく。
異物のようなものが体内に入っていくのがわかった。
違和感はあるが、徐々に体に馴染んでいく。
「そう。そしたら魔力と混ぜ合わせるのよ」
ゆっくりと魔力と自然力を混ぜ合わせていく。
すると、体内で変化が起きた。
体中から力が漲ってくる感覚。
言い知れない高揚感。
これがマナ。
少しの魔力と自然力を掛け合わせただけで、爆発的なエネルギーとなっているのが
わかる。
「マナは生成できたわね。そうしたら、次はそのマナを使って精霊術をしてもらうわ。最初は基礎の身体強化をやってみて」
「身体強化……」
「ええ、基礎だけど対人戦闘では必要不可欠なものよ。その必要性をルイはすでに経験しているはずよ。あの鎧の男との戦闘でね」
エアリスの言葉で琉海は眼前に立ち塞がった鎧の男を思い出す。
屋根の上からの跳躍。
そして、何も見えず刺されたときの光景。
どれも人間離れした動きをしていた。
「あれはそういうことだったのか……」
「あの男が使っていたのは、魔法による身体強化だったけど、効果は同じよ。まあ、精霊術と魔法じゃ、出力が段違いだから同じものを教えてるとは言えないけど」
「身体強化を覚えれば、あの見えない攻撃も何とかできるのか?」
「そうね。あの男の全力がどれぐらいの強さかわからないけど、感覚で推測すると精霊術の身体強化を覚えれば、互角の戦いぐらいはできるんじゃない。互角って言っているのはルイがある程度精霊術が使えるようになったらの話よ。練度が上がればそれだけ有利になるわ」
互角で戦える。
何もできなかった相手に身体強化を覚えるだけで互角に戦える。
その言葉だけで琉海のやる気はさらに上がった。
「魔法と違って精霊術は感覚で覚えるしかないから、私がルイの中に入って術のサポートをするから覚えてね」
「ああ、覚えるのは得意だ」
エアリスは光の粒子となって消えた。
『じゃあ、いくわよ』
脳内に直接、エアリスの声が聞こえてくる。
「頼む」
琉海が頷くと体内にあるマナが一気に消失した。
瞬間、皮膚の上に膜のようなものができた気がした。
『どう? 感覚は覚えた?』
「これが身体強化……?」
琉海は本当に強化されているのか疑問だった。
感覚的には、見えない服を一枚着ているだけ。
『ちゃんと強化されているわよ』
琉海は確かめるように手を開いて閉じるのを繰り返してみるが、変わったようには感じられず、首を傾げる。
『じゃあ、あの岩を殴ってみたら。実感できるわよ』
数歩近くにあった一メートルぐらいの高さのある岩に視線を向けた。
「なあ、これ平手でもいいか?」
ごつごつした岩に拳を叩き込んで、もし強化されていなかったときは悲惨な結果になる。
そんな失敗の瞬間を琉海は想像してしまった。
『別にいいわよ。結果は同じだから』
「それじゃ、お言葉に甘えて――」
琉海はできるだけ平らで怪我をしなさそうな部分を狙い、渾身の掌底を岩にぶつけた。
すると、なんの抵抗もなく岩が粉砕された。
「へッ!?」
まさかの威力に琉海は変な声を漏らした。
「どう、これが精霊術の威力よ」
エアリスはいつの間にか実体化して腰に手を当てて自信ありげだ。
琉海は自分の手と跡形もなく破壊された岩の残骸を交互に見ていた。
「体全体を強化するから、走ったり飛んだりする威力も上がるわ。ただ、身体強化は常時発動しているとどんどんマナを消費するから常にマナを生成しながら、強化し続けないといけないのよね。これができるようになれば、ある程度のことができるようになるわよ」
エアリスはこのとき、ここが一番の難関であり、かなりの時間を費やすだろうと思っていた。
しかし、琉海は一度覚えたことは忘れない完全記憶能力を持つ。
それは視覚だけではなく、感覚でも同じことができた。
一度、その感覚を覚えてしまえば、忘れたくても覚えてしまっている。
マナの生成と身体強化。
同時にやるのは少し時間がかかったが、エアリスの予想を遥かに上回った。
「へえ、早いわね」
「まあ、覚えるのは得意だからね」
琉海はすでに強化しながら動きまわれるようになっていた。
走って、急停止。そこから大きく跳躍。
身体強化していない人間が見れば、瞬間移動のような速さだ。
合気道、柔術、拳法。
琉海は日本で見て覚えた知識をフル活用して動きを真似してみる。
「……すごいわね」
エアリスは琉海の動きに美しさを感じていた。
一通りの動きを終えると、強化を止める。
「こんなもんか」
琉海は全力で動いたらどうなるかの確認を終えた。
全力で動くと、辺りの時間の流れが緩やかになったと錯覚するぐらいに早く動けた。
力も十分。
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