第24話 決意

「うぉえ……ッ」


 琉海は膝を突いて吐く。


 村の惨状を見て、腹に入っていたものをすべて吐き出してしまった。


 ドラマや映画で見る死体とは別物だった。


 内臓が散らばり、体の一部が所々に見つかる。


 人間の形を保てているものは一つもなかった。


 血臭は充満しており、辺り一面赤黒くなってしまっている。


 数時間前までは皆会話をしていたのだ。


 それが、すべてあまりにも無残な亡骸と化している。


 ヤンばあも首だけの姿となっているのを見てしまった。


 琉海は嗚咽を漏らし、ヤンばあの最後の言葉を思い出す。


 アンリのことを頼まれたが、琉海は何もできなかった。


 後悔がまた襲い掛かってきそうになるが、その思考を捨てた。


(根本の原因は後悔の中にはない)


 この世界に存在するのは、奪う側と奪われる側の二つ。


 それは別にこの世界だけの話ではない。


 元の世界の日本でもあった光景だ。


 部活のレギュラーや会社の役職、様々なものを奪い合っていた。


 ただ、それらで奪い合っていたのは、地位や金といったものばかりだ。


 この世界は違う。


 この世界で奪われるものは命だ。


 日本よりも命の価値が安い。


 さらに、この世界の環境では圧倒的に奪う側が有利過ぎる。


 日本のように監視カメラや携帯電話などの情報ツールがない現状、この村の惨状を国か領主が知るには、どれだけ時間がかかるだろうか。


 もし、すぐに調査をはじめても犯人を見つけるのにどれだけの時間がかかるのだろうか。

 

 犯人の見当がついた頃には、事件を起こした犯人たちはどこかに逃げているのではないだろうか。


 あまりにも奪われる側が不利な環境だ。


(なら、有利な側に俺は立つ)


 大切な人や守りたい物を外敵から守るには圧倒的な力が必要だ。


 琉海は決心した。


「……エアリス」


 琉海は地面を見つめたまま言う。


「なに?」


「魔法を教えてくれないか?」


 奪われるぐらいなら、奪う側になる。


 まずはアンリを助ける。


 そのために必要なのは力だ。


 現状、琉海が有効活用できそうな物は魔法ぐらいだろう。


 幸いにも覚えることには自信がある。


「別に構わないけど、私が教えるのは、魔法じゃないわ。精霊術よ」


(精霊術……?)


 単語を聞く限りだと精霊による何かの術なのだろう。


 だが、琉海が知りたいのは、それが何なのかではなかった。


「それは使えるのか?」


「ええ、習得できれば、魔法なんかより十分強いわよ」


 琉海は立ち上がり顔を上げた。


「なら、それを教えてくれ」


 異世界で2度死にかけ、常識を破壊された琉海。


 琉海がこの世界の住人となった瞬間だった。

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