第5話 出会い

(俺は死んだ……のか……?)


 真っ暗な意識の中、琉海は最後の記憶を思い出す。


 走馬燈のように飛行機でのことが脳裏を過ぎる。


 その意識の中、夢から覚めるかのように体の感覚が呼び起こされた。


 暖かい風が頬を撫でる。


 その風が自然特有の草木の匂いを運んできた。


 次第に琉海の体が覚醒に導かれる。


「ん……」


 意識が戻り、琉海は瞼をゆっくり開いた。


 直射日光で視界が一瞬真っ白になる。


 それも徐々に慣れていき、視界が広がると自分が森の中にいると理解した。


「ここは……どこだ? 死後の世界……か?」


 大自然の中で琉海は周囲を探ろうとしたとき――


「目を覚ましたわね」


 突如、少女の声がした。

 

 琉海は声のしたほうへ顔を向けた。

 

 そこには、樹齢数百年かと思えるほどの大木から伸びる太い枝に、腰かける黒髪の一人の少女がいた。

 

 見た感じ同じぐらいの年齢だろうか。

 

 周囲には小鳥やリスなどの小動物が集まっており、おとぎ話の妖精のようだった。


 しかし、彼女の黒いドレスが、自然の神々しい雰囲気と真逆の存在のよう思わせる。


「君は誰だ……? いや、それよりもここは……?」


「聞きたいことは山ほどあるようね」


 少女は身軽に地面に飛び降りた。


 鳥たちが飛び立ち、リスたちも別の木々に逃げていく。


 地面に素足で着地する少女。


「体はどう? 問題はないと思うけど、不調があれば言ってちょうだい」


 琉海は立ち上がって、軽く体を動かしてみた。


「いや、問題ないかな……そういえば……」


 記憶がフラッシュバックし、腹に大きな傷を負ったことを思い出す。


 咄嗟に自分の腹部を触り、目で何も傷がないことを確認した。


「ここに傷があったと思ったんだが……」


「死にかけだったからね。でも、私が治したわよ。いや、治したというのは正確じゃないわね。そうね。複製したといった方が正確かしら」


「複製……?」


「あなたの体はズタボロであそこに倒れていたのよ。助かることのないほどの重症だったわ。私の近くに落ちてきたのは幸運だったわね。ああ、ついでに服も複製しておいたから」


「いや、複製についての答えになってないと思うんだが……」


「複製についてね~」


 少女は顎に指を添えて考える素振りをした後――


「それには、私のことと今のあなたの状態を説明する必要があるかしら。長話になるだろうから、場所を移しましょう。そういえば、あなたの名前を聞いてなかったわね」


「俺は、才偽琉海だ」


「サイギルイ。変わった名前ね。私はエアリス」


「エアリス?」


(外人だろうか……? 日本語を喋っているように聞こえるが……まあ、話しを聞けば何かわかるかもしれないな)


 琉海は一旦思考を棚上げし、話しを聞くことを優先することにした。


「よろしく。俺のことは琉海でいい」


「そう、ではルイ。末永くよろしくね」


「ん? あ、ああ、よろしく」


 少女の言い回しに若干引っかかる部分はあったが、黒髪の少女エアリスは話が終わると、森の中にどんどん行ってしまうので、聞くこともなく後を追った。

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