「死ぬのを見ていてくれないか?」

1

耳が痛くなるほどの、蝉の鳴き声。

眩しいほどに真っ白の病室に、淡々とした声が響く。

「僕が死ぬのを見ていてくれないか?」


最近、頻繁に彼が死ぬ夢を見る。

何日も何日も、彼が死ぬ夢を続けてみている。

決まって彼は病院の病室の窓枠に座り、そう言って笑うのだった。

死を待つのが怖い。だから自分で死にたい。

けれど1人で死ぬのは怖いから見ていてくれないか、と。

彼を止めようにも足に根が張ったように動かず、ただただ彼が落ちていく姿を見届けて、鈍い音と共に目を覚ます。


彼は生まれつき、病に侵されていた。

名前は忘れたけれど、全身の機能がだんだん弱まって、大人になる前に__16歳には死ぬだろうと小学生の時に言われたんだと彼は言っていた。

しかし、彼はもう17歳になっていた。

医者からは「奇跡」だと、親からは「希望」だと言われ、いつも気まずそうに笑っていた。


「おはよう」

「ああ、今日も来てくれたんだ」

夏休みの日課は、朝起きて、彼の病室へ訪れ、話をして、帰って、勉強をして、寝て、あの夢をみて、起きる。その繰り返し。

今日もいつものように彼の病室を訪れて話をする。

「蝉っていいよね」

突然彼が言った。

「どうして?」

「長い間土の中で生活して、たった1週間の短い夏を満喫して死ぬ」

羨ましいよと彼は外の木に止まる蝉をみて零した。

「…君は死にたいのか?」

「いつ死ぬか分からない恐怖に毎日怯えながら狭い病室で生きるのは辛いものだよ」

いつもの夢と重なり、かける言葉が咄嗟に出てこなかった。そんな様子を見て、彼はくす、と笑って見せる。

「まあ、君がいるからたのしいけれどね」

「毎日来るよ」

「君と別れたくないなぁ」

「それはこちらも同じだよ」

きっと君は死なないから大丈夫なんて無責任なことは言えない。そのかわりに代わりに

「できることならずっと一緒にいたい」と言って笑うと彼は「僕もだよ」と安心したように笑った。








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