『人は右、車は左』
ポンデ林 順三郎
連作短歌『人は右、車は左』
◆作者
『人は右、車は左』
人は右/車は左/鳥は上/モグラは下を/虹の彼方へ
左手で口端のひげを抜きながら三面鏡の扉を磨く
人は右/車は左/溝板を踏み抜く人を見下ろしている
手遊びに撥ねとばされるミニカーの裏の名前は掠れて薄く
人は右/車は左/仏の座/雪解け水に踏まれて沈め
隔り世の対岸の道向こうの知らない人に見覚えがある
人は右/車は左/花に水/料理は心/そして明日を
頂き物のニスの味がする箸を、二時間ばかり洗って居る
人は右/車は左/下がハートで/上が太陽/ホトトギス
菜の花や(字足らず)
人は右/車は左/真ン中を渡るべからず/虎がをる故
カナカナと鳴く虫達の正面に立てば頭突きを額に受ける
防御力の高いベアが前衛/両脇は人と車が固める/お前は私の後ろに立つ
お前のポジションが一番安全だ 安心して戦え
人は右/車は左/山茶花の咲く先を追い/左折三遍
駅を出て一月四日午前九時とまどう牛の綱手かなしも
人は右/車は左/西日本では逆になるというDemagogie
earphoneを左の耳にだけはめて聴かされていたmonauralの曲
人は右/車は左/犬の尾を追う犬を追う淀川の土手
センサーの壊れたルンバに箸を載せ何が起こるか凝と見ている
人は右/車は左/分かたれている街にすむミミズとオケラ
香典に入れた指輪は焼かれたとも、売られたとも、棄てられたとも
人は右/車に乗った人も右/人に乗られた車は左
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