EB エクストリーム・バトルハザード
『『『うぉぉぉぉぉぉっ!!』』』
歓声が上がる。
その会場にいる人たちは皆中央ステージに熱い視線を送っていた。
そこには2機のロボットがドーム状のフィールドで戦いを繰り広げていた。
スタイリッシュで流線型のボディにバックパックと脚部にスラスタ-が印象的な機体ともう1機は逆に大きめなボディとそれをしっかり支えられる脚周りでホバー機能を有している。1番の特徴はバックパックに多彩な重火器を備えていた。
ステージを挟むように人が立っており周辺には仮想パネルがいくつも表示されていた。
(このまま長期戦はまずい)
メインモニターから少し目を離し横のモニターを確認する少年。そこには機体の出力系統の画面が表示されておりエネルギーの残量が残りわずかであることを示している。
少年は操縦コンソールを操り、距離をとり建物の影に隠れた。
『どうした、もう限界かね?』
別のモニターから対戦相手であるサングラスをかけた青年が落ち着いた声で問いかけてきた。
向こうの機体も物陰に潜んでいるのだろう。追撃の予兆はない。
「限界なのはそっちじゃないんですか。」
こちらのエネルギー不足を悟られまいと強気に返す。その間にキーボードを表示させ打ち込みを開始する。
(リミッターを解除しても動ける時間に差はない。気づかれずに対処できるか...?)
ルール上問題はないが、まだ未発表の技術なのでバレるとちょっとした騒ぎにはなる。
しかし、真剣に向かってくる相手に生半可なことはしたくないし、スポンサーのことも考えると負けるわけにはいかない。
少年は目を瞑りステージ内をイメージし戦っていた場所と自分の位置と相手の位置を割り出す。
(ポイント103で接敵は間違いない。問題は相手の武器だな)
どちらの機体も消耗が激しいが、相手は多彩な火器を搭載している。まだ遠距離の武装があってもおかしくはない。
対するこちらといえば―――
「接近戦用戦術ナイフ『SSC78』か...」
武器の性能としては申し分ないが、相手がそう簡単に近づかせてくれるとは思えない。
迂闊に飛び出せば蜂の巣にされるのが関の山だが、裏取りするほどエネルギーは残っていない。
「やるしかないな...」
操縦コンソールを握り、覚悟を決めた。
建物から飛び出した機体に相手の機体がすぐに反応する。
現れた位置は少年のイメージ通りだったが、反応が早い。こちらの動き出しを読んでいたかのような動きに少し驚きながらも距離を詰める。
青年の駆る機体とは一直線上に位置しており障害物もない平坦なため射線はしっかり通る。
『この間合いならばッ!!』
青年は操縦コンソールから武器を選択しスロットに入れる。バックパックにあるバズーカが機体の肩から本体へ伸び、それを受け取り構える。コンソールのボタンと連動して機体の指がトリガーを引く。
少年は飛んでくるバズーカの弾を寸でのところで避ける。後ろで爆発を推進力に加えさらに距離を詰めていこうとするが弾幕がそれを阻む。
「くっ...」
『どうやら接近武器しかないように見えるッ!!』
「まだ、やりようはある。」
『ならば見せてみよッ!!』
「言われなくともっ」
少年の機体は弾幕を掻い潜りながら着実に近づいていくが、エネルギーアラートが表示される。
「もってくれよ、【ゼノン】!!」
エネルギー切れを気にしつつ避けていると突然弾幕が止む。相手の機体を見るとどうやら弾切れになったようで隙ができた。
この瞬間を逃すわけにはいかなかった少年は一気に距離を縮め懐に入った。
「もらったッ!!」
踏み込んだ機体はそのままナイフを突き立てる。
『甘いな...』
青年がそういうと機体のバックパックから脇に小銃が伸びる。
その銃口は懐に飛び込んだゼノンを捉える。直撃は避けられない。
「MSMCユニット稼働。コアドライブ120%出力。システムオールグリーン...」
少年は銃口を向けられているにも関わらず、キーボードを打ち続ける。
(オーバードライブッ!!)
少年の掛け声と同時にゼノン動きが変わる。攻撃モーションから片足のスラスタ-を全開で稼働させ機体を半身で構え躱す。
従来機ではありえない動きで直撃するはずだった弾丸を避けたゼノンに『ば、馬鹿なッ』と青年も驚きを隠せなかった。
その動揺により動きが鈍くなったところにトドメの一撃を刺そうとした瞬間、ゼノンの動きが止まる。
「ふぅ...」
少年は息をつく。出力系統のモニターのエネルギーケージの部分が『empty』と赤く表示され点滅している。
フィールドやモニターを形成していた【
『勝者!! EBチャンピオン、
『『『うぉぉぉぉぉぉっ!!』』』
司会者の勝利宣言と同時に岬は軽く手をあげる。
その瞬間歓声が会場に響き渡る。
岬はその声援に答えるかのように観客に手を振った。
そしてそのまま少年のもとに歩みを進めた。
「伊那守くん、素晴らしい試合だった。」
「どこがですか... 終始押されっぱなしでしたよ。」
「そんなことはない。私の方もギリギリだった。」
岬は落ち込んでる
そっと手を出し握手を求める岬に伊那守は少し嬉しそうに手を握った。
その瞬間再び歓声が響き渡った。
「最後のあれはやはり『ミストラル』の最新技術といったところかな?」
「あ、やっぱり気づかれました?」
「見ているものには理解できないかもしれないが当事者の俺にはごまかせないだろう。しかし、武装ではなく機体の躯体部分を根本的に見直すというところに着眼点を置くとは―――」
『ミストラル』は
しかしその実態は誰も知らず、オフィスや製造工場がどこにあるのかさえ不明という変わった企業である。
この企業が出しているパーツや武装は他の企業と比べると1世代先と言わしめるほど良く、人気を博している。
なお技術に関してはその内容を公開しており、どの企業にも使えるようにしている。
そのためEBは短期間ですさまじい発展をしてきており、立役者にもなっている。
ふと、ブツブツと考え込んでいた岬は顔をあげる。
「ミストラルはまた新しいものを作ろうとしているんだな。」
「そうみたいですね。」
「まるで他人事みたいじゃないか?」
「スポンサー提携してるだけなんで...」
「ははは...」と乾いた笑いを見せると、岬は納得はしてないようだがそれ以上の追及はなかった。
「そうだ、伊那守くん。明日の部活は休みにすると刀条くん達に伝えておりてくれないか?」
「え、あ、はい。分かりました。部長は明日はいないんですか?」
「ああ。本当なら今日ロールアウトするはずだった機体の最終調整を行わなければならず、『グラナダコーポレーション』に出向く。」
岬灯夜―――
成桜学園3年にして生徒会長兼『EB部』部長。さらにEBの現チャンピオンでスーツなど着ていると大人びて見える。普段から冷静で学園では男女共に人気が高いが本人は生徒会長だからと謙遜している。文武両道で学力とスポーツのテストは必ず首位を維持している。
そんな彼だがEBには目がなく、日々研鑽を続けている。スポンサーであるグラナダコーポレーションに出向しては新たな機体を開発している。
グラナダコーポレーションはEBのシェアを8割占めている筆頭株主で公式大会の主催はこの会社が運用している。
グラナダコーポレーションはマルチに商品展開をしており、岬はプロモーション活動に駆り出されている。そのため町を歩けば彼の写真を見ないことはない。
「部長は
「あの噂か... 参加することに異議を唱えるつもりはない。戦略性の向上にもなる上、一人では魅せられないパフォーマンスができるかもしれない。しかし...」
「しかし?」
岬は少し考えるように口ごもる。
伊那守は不思議そうに聞き返す。
「...同じ意思を持つもの同士が共に歩むとき、同じ方向を向いていなければならない...か。」
岬の言葉の真意を掴めずに思わず首を傾げる伊那守だった。
「まぁ、参戦してくるなら相手になるまでさ。」
そう言って岬は踵を返す。
伊那守も自分の機体を持ってステージを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます