女子トイレの闇は深い

叶本 翔

0-君の顔

 スマホを脇に置いて、少年の顔を描き出す。私の得意な鉛筆画だし、コンテストに出すわけでもなければ部誌に載せるわけでもない。要はこの絵は気楽に描いていい絵。

 だが私は、これを丁寧に描ききる所存でいる。大切な友人からの依頼であるからだ。軽い気持ちで頼んできたものだが。

 彼が「じゃあ今度、俺の絵も描いてよ」と無邪気に笑っていたのを思い出す。そして、部活の練習を校則違反を犯して写真に納めたのが3日前である。

 写真の中の彼は高く飛んでしなやかに腕を曲げ、開いた手で今にボールを打たんとしていた。上に少しだけ浮いたような形の髪や、めくれて肌が見えていることが躍動感を醸し出している。

 彼が部活をしているところを見るのは初めてだった。よくもまああんなに暑い体育館でバレーをしようなどという気になれるものだ。私は絶対無理。

 雑念を振り払って、私は写真に目を落とす。横顔の形を見つめて、アタリが間違っていなかったか確認をする。

 それにしても、ずいぶんと長い睫毛をしている。分けてほしい。

 そして慎重に線を引く。ゆっくり、丁寧に。絶対に間違えなんてないように。寸分の違いもないように。


 こんなことを考えながら描いた絵が私の最後の"人の絵"になるとは、私は思ってもいなかった。

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