駐在さん走る!《異世界の治安は俺が守る》

ぶっちゃけマシン

第1話 プロローグ

精霊よ!ピフラ! 我が火の領域を顕現し、 リトヴァ マルヒャヘル サラステ 彼の者に力を与えよ! ハンハィキロ ヴォイマ ミンダー!  筋力強化! リハスヴォイ・マーハ!


精霊よ!ピフラ! 我が風の領域を顕現し、 リトヴァ ツーリヴォイマ サラステ 彼の者に速さを与えよ! ハンハィキロ ノペウス ミンダー!  俊敏性向上! ケッタリュス・パラヌス!


「ピラフ! あ、違った。精霊よ!ピフラ! 我が土の領域を顕現し、 リトヴァ マペラヴォイマ サラステ 彼の者に鋼の硬さを与えよ! ハンハィキロ テラス ポロストス ミンダー!  身体強化! ルーミス・マーハ!


三人の女子高生がそれぞれ魔法ヴァルマキを詠唱する!


 詠唱が終わると駐在警察官ちゅうざいけいさつかん井出いで 浩一こういちの体が赤、青、黄色の淡い光に包まれてゆく。彼の体に掛けられた付与ミンドル魔法ヴァルマキにより筋力と俊敏性しゅんびんせい、そして身体の強度が大幅に向上してゆく。体中から力があふれ、羽が生えたように軽快になる。その体は刃物でいても傷一つ付けられないほどのかたさだ。これで魔法が切れるまで、井出はちょっとしたスーパーマンになった。


「おおーい! そこのぱらったオークとゴブリンども。そのから手を放せ!」


 井出の呼びかけに赤い酔眼すいがんをしたオーク2体とゴブリン3体が一斉に振り返った。一人のオークのかたわらには猫耳と尻尾が生えた少女が瞳に涙を一杯浮かべて立っている。その肩はオークの暗緑カーキ色のゴツイ腕でがっちりとつかまれていた。


「なんだ? このチビ! たった一人で俺たち5人の相手しようってのかよ?」


 井出の前に身長2mをすオークが仁王立ちになる。対して身長172cmの井出。事情を知らない人間が見たら、井出の行動は無謀な虚勢きょせいを張っているように見えるだろう。彼はたちまち5人のオークやゴブリンたちに取り囲まれてしまった。


かまうことねえや、皆でやっちまえ!」


井出を取り囲んだ獣人どもが一斉に殴り掛かる。見れば土木作業用のスコップを手に殴り掛かるゴブリンも居た。


「ガッチン! ゴッキン! ボキッ!」


「ぐわあっ! 手が、手が痛てえ! 何だコイツ、岩みたいにかてえぞ!」


 井出を狙ったパンチや蹴り、スコップが次々と命中するが彼にダメージを与えることは出来ない。逆にオークやゴブリン共は拳や足を痛めてしまったようだ。井出を殴りつけたスコップもポッキリと折れてしまっている。


「ほい。お前ら、全員まとめて留置場トラ箱に入れてやる。そん中でいがめるまでしっかり反省するんだな。こないだドワーフのおっちゃんたちが作ってくれたばかりの新築だから居心地は悪くないと思うぞ?」


 井出はそう言うとオークやゴブリン共の額に一発づつデコピンをらわせた。彼が本気でやれば拳銃で撃たれたくらいの威力はある。しかし井出はある程度手加減してやった。彼の目的は犯人確保であって、殺すことではないからだ。5人の獣人たちは糸の切れた操り人形のようにその場に倒れ伏す。


「災難でしたね、お嬢さん。あなたを保護致します。さあ、あちらの駐在所へどうぞ!」


 井出は100m程後ろにある建物を指差した。三人の女子高生たちが猫耳娘の肩をき優しくさすってあげながら移動を始める。それを見届けてから彼は足元を見廻してつぶやく。


「さあて、まずはこいつらをぶち込んでしまうかな!」


 井出は5人の獣人たちをひょいひょいと纏めて肩に担いで歩き始めた。2m以上あるオークを2人、その上ゴブリンを3人担いだその姿は現実離れし過ぎてユーモラスでもある。


「リーン! ゴーン! リーン! ゴーン!」


駐在所の方角からかねの音が聞こえてきた。


「お! 丁度、お昼ですか。今日の昼ご飯は何かな~? 昼飯前に一仕事したからおなかいちゃったよ。」


軽口を叩きながら、軽い足取りで駐在所に向かう井出。


 この物語はある冬の日に三人の女子高生たちと共に「アルヴァノール」という異世界に飛ばされてきた駐在警察官ちゅうざいけいさつかん井出いで 浩一こういちが彼女たちを守るため、そして異世界の治安を守るため、西へ東へ奔走ほんそうする姿を描いたものである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る