【短編】僕は『イヌマン』!!  ~犬から人に転生した少年は世界一ダサいヒーローになって戦う!?~

mimiaizu

第1話

「ようこそ、お越しいただきました。心優しいワンちゃん。誠に残念ながら、あなたは死んだのです」

「!? ワンワン!」

「落ち着いて聞いてください。ここは死後の世界、死者の魂が来る世界であり、天国に行くか生まれ変わるかを決める場所です」

「ワン……?」

「あなたのこれまでの人生は波乱万丈でしたね。生まれた時から鼻が悪くて他の兄弟についてゆけず、家族とはぐれて一人ぼっちになったところを悪い人間に捕まってしまい……」

「ワンワン、クウ~……」

「その悪い人間に毎日傷つけられることに耐えきれず、自力で逃げ出せたはいいもののお腹が空いて何日も飢えに苦しむ日々……」

「クウ~ン……」

「しかし、そんなときにあなたを拾い助けた人間が現れました。冷たい雨の中で身動きすらできなくなったあなたを見つけ出し、家に連れてきて看病してくれた少年!」

「!」

「そう、あなたの本当の主となった『佐藤総司』君です。あなたはこの少年とそのご家族の看病の末、元気になってそのまま一緒に暮らすことになったのですね」

「ワンワン!」

「その後、家族として『シロウ』という名前をもらい、あなた自身もそれを受け入れ、幸せを手に入れました!」

「クウ~ン、ワンワンワン!」

「……ですが、その二年後に事件が起きました」

「!?」

「そうです。あの強盗事件です。あなたと飼い主の少年と友達の黒い猫ちゃんはお留守番をしている時に強盗の被害に遭いました」

「グルルルル……」

「その時に友達の黒い猫ちゃんと一緒に強盗に立ち向かい、あなたは……」

「…………ワウ~ン」

「命を落としました。友達と共に……」

「ワン……? ッ!? ワン! ワンワン!?」

「あの猫ちゃんは残念ながら、あなたと共に亡くなりました。あなたよりも少し早く、ここに来て後のことを決めました」

「ッ!! ワンワンワン!?」

「あなたの主のことですか? ご安心ください。あの少年は傷一つなく生還しましたよ。あなたたちが命を懸けて強盗という人たちと戦った結果、警察官という人たちが少年を保護してくれました」

「ッ! ワウ~ン!」

「ただ、あなたたちを失って少年は家族と共に悲しみに暮れています。この悲しみが晴れることはありません」

「ウ、ウ、ウ……」

「ですがご安心ください。彼らは後に前を向いて進んでいくことでしょう。あなたたちの分まで生きると誓って」

「ワン……!」

「主たちのことはこれで安心してくださいね。ここからはあなたのこれからを決めるのですから」

「?」

「天国に行くか生まれ変わるかを決めてください。あなたならすんなり天国に行けますが、お望みなら前世の記憶を持ったまま転生することができます、特典付きでね」

「ワン?」

「何故、前世の記憶を持ったまま転生されるのか? それはあなたの功績が素晴らしいからです。波乱万丈の人生を送りながらも、心が荒むことなく、更には友達と主を守るために勇敢に戦おうとする強い意志、それに美しい夢を持っていました」

「ワ、ワフ……」

「本来ならば、清く正しい心を持った才能ある人間に許される事例なのですが、それに当てはまる人間が中々いないのです。そこで今回は特別に、美しい夢を持ったワンちゃんに許すことにしました。特典もですよ」

「ワンワンワン?」

「特典のことですか? それはですね、あなたの夢をかなえるのにピッタリな特別な力のことです。どういうものかというとですね…………(省略)…………」

「……………………ワンワンワン!」

「ふふっ、受け入れてもらえますね?」

「ワンワン!」

「それでは転生を行いましょう。転生する先の世界はあなたの生前の世界とはだいぶ違っていますが、その世界でならあなたの夢をかなえられるでしょう」

「ワウ~ン!」

「それではワンちゃん。いいえ、シロウさん。あなたの魂を新しい世界に送ります」

「ワン!」

「さあ、お行きなさい。新たな世界『ディショエ』へ。新たな犬の、いえ、人としての生涯があなたを待っています」

「!?」

「あっ、言い忘れましたね。あなたは人間に転生します。見た目はあなたの主にそっくりですから喜んでくださいね!」

「ワンッ!? ワ、ワ、ワ、ワンッ!?」

「特別サービスってやつですよ。それでは、転生先をお楽しみに~」

「ワウ~ン!!」




 こうして、僕は人間に転生した。それも、前世の主だった『総司君』と全く同じ姿にだ。


「本当だった……」


 僕は確かに覚えていた。犬だった前世と死後の世界で女神に会ったことも。そして、何より……


「特典か」


 これも間違いなかった。『特典』と呼ばれる特殊能力も身についていた。


「いよいよだ……」


 この世界で始まるんだ。僕の人間としての人生。そして、前世に夢見たヒーローとしての戦いが始まるんだ!


「女神様、ありがとう!!」


 これからの僕は正義のヒーロー『イヌマン』だ!!

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