第3話 ギャレーの町

 陽が暮れる前になんとか到着できた。ふ~。疲れた。


 体力はあるほうだけど、道なき道を進むと言うのは予想以上に体力を使うものなのね。もっと山歩きして鍛えないとダメね。


「裸足じゃないだけよかったけど、室内靴じゃ歩き難いわね」


 魔力で強化したとは言え、ゆったり作りなので隙間が生まれてしまい踏ん張りが利かない。無駄に体力を消費してしまったわ。


 ギャレーの町は出入りが自由で、衛兵も立ってない。霧の森が近くにあるのに無用心なことね。


 と思ったけど、町の中に入って納得。ここは冒険者の町でした。


 霧の森は魔物が生息し、その素材は経済を回している──とは聞いたことはあるけど、どう回っているかは知らないわ。魔物の素材とか使わないで生きて来たからね。


 仕事を終えて来た冒険者さんたちが、場違いな格好をしたわたしに目を向けて来るけど、近寄って来ようとする者いない(なんか避けられてる?)。 冒険者は若い女にちょっかいかけて来るとおばあ様が言ってたんだけどな~。


 まあ、ちょっかいかけられても嫌なので、冒険者さんからの視線を無視した。


「宿屋はどこかしら?」


 世間知らずと自負はあるけど、箱入り娘ではない。おばあ様が勉強だからと宿屋には何回か泊まったことはあるし、受付もしたこともあるんだから。


「あ、その前にお金をなんとかしなくちゃならないか」


 部屋着なのでお金なんて持ってない。ポケットに入っているのはスマホ、ハンカチ二枚、携帯用の裁縫セット、懐中時計、各種魔法の指輪、そして、チョコレートだ。


 ……チョコレートはわたしの活力の元なんです……。


 まだ空腹ではないので、少し町を回ってみることにする。道具屋さんとかあればハンカチが売れると思うのよね。


 陽はどんどん傾き、辺りが暗くなっていく。


「さすがに暗くなったらお店はしまっちゃうよね」


 しょうがないと見切りをつけ、手ぶらな冒険者さんたちの後に続いた。おそらく宿屋に向かうんだろうと思ってね。


「……だよね~……」


 わたしの読み通り、冒険者さんたちは宿屋に来たけど、その宿屋がとても汚ならしかった。


 まあ、その日暮らしをしているほうが多い冒険者業。宿屋にかけるお金は少ないか。


「……所持金なしのわたしには泊まることもできないのよね……」


 もう完全に暗くなって開いてる店も宿屋くらいでしょう。あ、酒場はやってるかな? 


 酒場ならお酒が売れるかな? と考えていると、怪我をした冒険者さんの一団がやって来た。


 回復魔法師がいるとは言え、数は少なく高額な治療費を取られる。回復薬もあるけど、効果がいいものはやはり高額だ。見た感じ、初心者っぽいこの一団には効果の薄いものでも買えないでしょうよ。


 あ、治療をして宿代を稼げるかもしれないわね。


 毎日の宿代を稼ぐのも大変な様子だけど、それは健康な体があってこそ可能になる。腕が折れるような怪我をしたこの状態では今日を生きるのも難しいでしょうよ。


「少しいいかしら?」


 背に腹は代えられないと冒険者一団に声をかけた。


「な、なんだよ!」


 なにか敵意、じゃなく、威嚇? が強いこと。わたしは無害な女ですよ。


「回復魔法は如何かしら? 今金欠だから今日の宿代分でいいですよ」


 腕を見せるために額を怪我した十四歳くらいの少女を回復させた。


「今の実演。お金はいいわ。どうします? あ、もちろん、全員を回復しますし、代金は今日の宿代分だけですから」


 破格ですよ。受けちゃってくださいな。


 悩む一団だったけど、そちらも背に腹は代えられないと判断してわたしの回復魔法を買ってくれ、今日の宿代分を払ってくれました。ありがとうございま~す!


 受け取った汚い硬貨六枚を清浄の魔法で綺麗にする。


「サンビレス王国のサビー銅貨か」


 サビー銅貨一枚で雑魚寝部屋に泊まられ、三枚で二人部屋を。六枚で一番いい部屋で泊まられるらしいわ。


「さすがに雑魚寝はないわね」


 二人部屋も聞いた限りでは薄い壁がある程度。とても私事が確保できるところではない。なので一番いい部屋に決定します。


 宿屋に入ると、受付のおじ様に驚かれました。


「ちょっ、あんた、そんな格好じゃ困るよ!」


 格好? と、幻影魔法で自分の姿を映し出して納得。これでは冒険者も寄って来ないわ。


 ギャレーの町に来るまで魔物の襲撃を受け、撃退した。その返り血で酷いことになっていた。


「失礼」


 清浄の魔法で返り血を消し、これでよろしいかしら? とにっこり笑って見せた。


「……なんなんだい、あんた……」


「ちょっと魔法が得意な女ですよ。一番いい部屋をお願いできますか?」


 受付台にサビー銅貨六枚を置いた。


「あ、ああ。ようこそ、ニーナの宿に。食事はどうする?」


 仕事熱心な方のようで、驚きながらもちゃんと対応してくれました。


「お金が心ともないので結構です。持ち込みは大丈夫ですか?」


 失礼だけど、とてもわたしの口に合うものは出なさそうですし、ご遠慮させていただきます。


「構わんよ。部屋は三階のリリアの部屋だ」


 部屋の鍵をもらい、部屋へと向かった。

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