第2話 放り出される

 城。


 おばあ様もわたしもそう呼んでいるけど、正式には《ラビアーズ城》と言う。


 ラビアーズ城は、カルビラス王国とサンビレス国の間にある霧の森の中心にあるわ。


 なぜそこに建てたかと言えば、おばあ様が老後を過ごすために建てたらしいわね。


 おばあ様は強大な魔力を持ち、不思議な力を持っていて、いろんな国から重要視されていたわ。


 力は欲を呼ぶ。と、おばあ様はよく言っていた。


 おばあ様の力を欲した各国は、口では言えないようなことをしておばあ様の幸せを邪魔したそうよ。


 カルビラス国の王子だったおじい様は、全力でおばあ様を守ったようだけど、暗殺者によって倒れてしまった。


 それからおばあ様は、生まれたお母様とこのラビアーズ城に移り、知り合いのところや旅ぐらいにしか外に出なくなったそうよ。


 ラビアーズ城はとにかく広い。


 知らない者──は入れないけど、許可した者も軽い気持ちで探検にでたら一生出れないでしょうね。わたしも十数年ここに住んでいるけど、まだいったことがない部屋がたくさんあるわ。


 ……本気か冗談か、おばあ様はラビアーズ城と言うより無限城と言ってたほうが多かったわね……。


 まあ、どんなに広くても暮らしていけば使う部屋は決まって来るもの。今では五部屋しか使ってないわ。


 よく使う居間に入ると、赤いドレスのような姿の女性がいた。


「シャーリー。やっと立ち直ったようね」


 え? 誰? と思う方もいらっしゃるでしょう。


 この城でおばあ様と二人っきりの生活をしていた。それは間違いないわ。人は一人二人と数えるでしょう。まあ、他の単位もあるでしょうけど、精霊は一人二人とは数えないでしょう? 精霊は……体? 匹? な、なにかしら?


 ま、まあ、うちでは名前呼びが基本で、目の前にいるリンシャーと、温室にいるリムビしかいない。単位なんてどうでもいいのよ。


「うん。心配かけてごめんね。もう大丈夫よ」


「それはなにより。落ち込んでいるようなら蹴飛ばしてるところよ」


「リンシャーは乱暴なんだから」


 精霊は基本、穏やかな性質だけど、おばあ様と契約してたせいか感情的なところがあるのだ。まあ、それに救われているところもあるから良し悪しよね。


「乱暴にしないと動かないでしょう、あなたは!」


 ハイ。まったくその通りでございます……。


「いきなさい!」


「え? どこに?」


「アリューナのところよ、このおバカ!」


 霊体ながら物理的なこともできるリンシャーがわたしの首根っこをつかみ、居間から引きずり出した。


「ちょっ、なっ、リンシャー!?」


 精霊としては高位な存在であり、おばあ様と契約してからさらに強くなり、わたしなんかじゃ抵抗することもできない。

 

 それでも必死に抵抗するけどまったく意味なし。そのまま玄関から放り投げられてしまった。


「ガードゥ」


「どうした?」


 庭で日向ぼっこしていたフェンリルのガードゥを呼ぶリンシャー。


「その子を城の外に放り投げて来て」


 はぁ!? いやいやいやなんでよ?!


「十年は帰って来ちゃダメよ!」


 じゅっ、十年っ?! って、二十八歳まで帰れないってこと!?


「精霊にとっては十年くらいなんでもないでしょうけど、人の十年は長いのよ!」


「大丈夫。あなたには精霊の加護があるから人の倍は生きられるし、老化もゆっくりだから」


 いや、だからって十年は十年でしょうが! と叫んでもリンシャーには通じないだろう。精霊は、一度決めたら絶対に覆さないから。


「な、なら、用意はさせてよ! 部屋着のままだし!」


 せめて外出用の服に着替えたいです! 


「ガードゥ。やっちゃって」



 親指で自分の首を切る仕草をしてからを下に向けるリンシャーさん。それは殺せってことだよぉおぉぉっ!!


 がぶっ。


 と、ガードゥに頭から齧られ、そのまま運ばれてしまった。


 いやぁあぁぁぁっ!!


 ぺっ!


 ミキサーに入れられたような激しい揺れがなくなったと思ったら、そんな音とともに吐き出された。


「……ひ、酷すぎる……」


 な、なぜわたしがこんな目に遇わなくちゃならないのよ! わたしがなにをしたと言うのよ! ただ、おばあ様の死を悼んでただけなのに!


「シャーリー。体に気をつけてな」


 ガードゥがわたしを踏み潰し、そして、帰っていった。


「…………」


 どれくらい地面にめり込んでいただろうか。時間はすべてを解決するとはよく言ったもので、涙は自然と枯れ、乱れていた心も落ち着いてしまった。


 ふん! と、力を入れてめり込んだ地面から抜け出した。


「……どこよ、ここ……?」


 フェンリルは一夜で千里を駆ける。東洋の言葉らしいが、ガードゥが本気になれば一時間で百リノを駆ける。


 齧られて、激しく揺られて時間はわからないけど、おそらく三十リノも駆けてはいないはず。なら、まだ霧の森から出てないでしょう。


「霧が出てないから一般の森との境界線、かしら?」


 スマホを出して地図アプリを開く。


 おばあ様からいただいた魔法具、スマホ。これにはいろんな機能があり、地図アプリもその一つ、なんだけど、やたらと魔力を食うのが難点。並みの魔力保持者では起動させることもできないでしょうね。


「やっぱり一般の森との境界線だわ」


 放り出すなら町の近くにして欲しかった。さらに言うならおば様の領地方面にして欲しかった。まるっきり反対側(サンビレス国側ね)じゃない……。


 近くに町がないかを探すと、ここから四リノ離れたところにギャレーと言う町があった。


「まずはそこでおば様のところへ向かう準備をしましょう」


 城で暮らしているけど、わたし深窓の令嬢ではない。聖賢者ミディリアナに育てられた者。このくらいでへこたれるほど柔ではないのよ!


 ふんぬー! と、鼻息荒く歩き出した。

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