第12話 箍が外れて 限界突破?

ランカが見ている間も、美少女は努力を止めない。

(エルフなら、最低限でも魔法は使える筈よね…何をしているのかな? )

 ゆっくり観察している内に、自分の情報が頭の中に浮かぶ。

(…なに これ。いろいろ増えて、熟練度レベルが上がった? )

 箱庭の世界では、熟練度レベルの高い鑑定師か聖教会の魔道具でしか、個人の情報は見えない。

 レベル表記の情報は、女神の領域からサポがリンクして送ってくれる。

 ランカに閲覧できるのはサポを介した部分だけで、サポが女神の領域とリンクを切れば、ランカには詳しく見えなくなる。

(リンクを繋ぎっぱなし? )


 体力    400

 魔力    450〈∞〉

 俊敏    400

 知力    350

 運     550〈強運〉

 健康▽   800

   忍耐

   恐怖耐性

   精神安定

知識技能

 薬学     熟練度レベル

身体技能 

 弓術     熟練度レベル

 短剣術    熟練度レベル

魔法技能

 錬金術    熟練度レベル

 属性魔法▽  熟練度レベル20

     地・水・火・風

  光魔法▽  熟練度レベル2 

     ライト

  風魔法▽  熟練度レベル1 

     ウィンドカッター

 特殊魔法

 植物魔法▽  熟練度レベル1 

     プラントバインド


(えぇ! どうしてこんなに熟練度レベルが…あ、師匠が貸してくれた魔道具だ。技能スキルの底上げとか魔力をどうとか…師匠 こわぁ)

 帰ったら色々と鑑定されそうだ。

(うん。隠蔽と偽装の熟練度、サポに上げてもらおう。バレたら先が怖いし…)

 とりあえず、魔法技能スキルは上限まで引き上げて貰うと決定だ。呑気に頭の中を観察していたランカは、拉致監禁されている状況で冷静な自分に気がついた。健康に生えていた恐怖耐性と精神安定のお陰かもしれない。

(この基礎値、いい仕事している? さて、逃げ出す前に連絡つけなきゃ)

『サポ? 聞こえる かな? 』 

『…随分と冷静ですね、ランカ。目覚める前から、ずっと繋がっていました』

(こっちから念話するまで待っているサポも、大概だと思う)

 意識が無くても、サポには位置や状態が伝わると確認できて安心した。

『いま、味方になってくれた竜人族の方を、ランカが監禁されている屋敷に誘導しています。救助されるまでに創造魔法のレベルを上げて、防御と攻撃の威力を増やしましょう。こちらから操作します。危険の際は遠慮なく殺ってくださいね』

『  はい』

 サポと繋がったパスに、音声があるのか分からないが、遠慮なくやってが、殺ってと聞こえた気がする。

『ま、良いか。隠蔽しているし。サポ、創造魔法のレベルも上限まで上げよう。足りなくて後悔するより良いでしょう。あとは防御ねぇ。壁ウォール? ゲームだと、いっぱい名前があるのだろうな。でも、咄嗟に言えなかったら詰むし。完全防御ならしっくりくる…物理攻撃も魔法攻撃も完璧に防いで、浄化や回復もしてくれる絶対領域がいい…って、贅沢? でも、ひとつくらいなら許されるかも…』

 誰に許してもらうのか、そこら辺は思いつかない。

『突然大胆になりましたね…了解です。発動する単語呪文ワードを決めてください』

『サンクチュアリ? ちょっと違う気がするけど、まぁ良いか。覚えやすいしね。後は攻撃魔法を…うぅ、エグいのはだめ……麻痺ならマシかも…パラライズ? 電気系なら雷かな? …スタンガン…スタン』

 色々なエフェクトを思い描きながら、なんだかんだ想像する。サポが繋いでくれた領域で、隠蔽した創造魔法がマックスになった。そこからサンクチュアリやスタンが生えてくる。

『サポってば仕事が早い! これもマックスかぁ〜。拉致監禁絶対反対って言うことで』

 呑気なのか、常識の箍が外れたのか、傍観するランカの頭の中は暴走気味だった。

『ん〜。取り敢えず防御で固めた感じ? 殺ってって…言われてもなぁ。無理なものは無理だもの。サポ、これくらいで良いと思うのだけど』

 今の限界が、常識の限界から天地ほども掛け離れていると、ランカは気づかない。サポの操作が終わって顔をあげれば、固まったように凝視する目とぶつかった。

「あ、どぅも 」

 語録の少なさに焦る。

「…あっちから、一緒に来た人よね…何をしていたの」

 縄を切ろうとして、いい加減疲れたのか、涙目になっている。

「ん? ステータスの確認? 」

 あっちから一緒とは、異世界転移だと思う。

鑑定技能スキルを使っただけよ? 」

 答えを聞いた途端にキツイ表情を浮かべたエルフ少女が、悔しそうに唇を噛んだ。

「あなたもエルフでしょ? 縄を切るなら、魔法を使ったほうが早いと思うけど」

 ランカの言い様に反応して、見開いた少女の目が零れ落ちそうになる。

「あんた 天然馬鹿? できるわけ無いでしょ…まさか、あんたはできるの? 」

 つい最近も、同じような内容を言われた。できるのかと聞かれて、少女の首輪に気がついた。繊細さの欠片もない、無骨な太い鉄の輪だ。

 目線を自分の胸元に移しても見えないが、息苦しいと思っていたランカにも、同じ物が付いているのだろう。頭を動かせば、確実に首が絞まる。

 部屋の隅で横たわる者たちも、同じだった。

(サポ。鑑定熟練度レベルを隠蔽の後 MAXに変更して。 首輪 鑑定)


 ・拘束の首輪 強制度三

 ・技能スキルの封印。

 ・従属者の行動を操作する。

 ・反抗に対し、従属者の周りから風精霊を遠ざける。


(風精霊? 風 遠ざける…空気? 窒息とか  んー エグい)

 連想するだけで、ムカついてきた。

『サポ。拘束の首輪って、どうやったら壊せる? あ、見た目は変化させないで』

 強制的に支配する行為を、ランカは到底許せない。特に弱者を物扱いする連中は、天罰が下れば良いとさえ思う。

『検索結果が出ました。最適な破壊方法は、一瞬にして膨大な魔力を流す事、です。ランカなら魔力そのものを直接に流すだけで、内部の魔道式を破壊できます。別の方法は、魔法式に干渉して消去する事です』

『了解。どっちにしても創造魔法よね。アシストお願い、えっと、消去はイレイザーかな』

 ランカのオーダーで、サポが魔法技能スキルを構築する。

 意識を首輪に纏わせ、サポの指示通りに魔力を練り上げる。なんとなく首周りの空間が歪む感覚に捕らわれ、頭の中に荒い魔法式が浮かんだ。

「【卑劣なる魔法式を消し去れ、イレイザー】」

 高圧洗浄機を使い、文字を消す要領で魔法式そのものを消してゆく。首輪から空気が抜けるような音がして、ずっと感じていた息苦しさが消えた。身も心も軽くなり、知らぬ間に押さえられて呼吸し辛かった空気が肺を満たす。

『完了です、ランカ。不備は見当たりません』

『ありがとう、サポ』

 拘束の首輪から魔法式を消した反動はなかった。これなら、他の人の首輪も心置きなく消去できる。サンクチュアリで皮膚一枚分外側を防御し、ウィンドカッターで切るメージをする。

『【束縛を斬り裂け、ウィンドカッター】』

 瞬時に切れた縄を払い落とし、凝り固まった身体を起こした。

「あぁ〜、すっきりした」

 どのくらいの時間、拘束されていたのか分からないが、背伸びすると関節が鳴った。

「さて、みんなの拘束も解くから。静かにしてね」

 

*****

 シンッと、闇が鳴く深夜。高台にある貴族の屋敷で、閃光と共に爆音が轟いた。吹き飛ばされたのは正面玄関で、一時、屋敷全体が揺れる。

「…随分と派手ですね、チェリンさん」

 床に座り込んだ少女たちを庇い、長剣を構えた竜人族の女が、ランカの問いかけに口角を上げた。

「我らがリーダーを怒らせたからね。非は相手にある」

 冒険者ギルドで足台代わりの木箱を貸してくれた竜人族は、フラックス領を根城にする高ランクパーティー、比翼の剣だった。

 清算を終えてギルドから出たメンバーは、目の前で拉致されるランカを目撃し、追跡してくれた。途中で見失うも、子虎を演じるサポに導かれて屋敷にたどり着いた後、ギルドと領軍に連絡し、見張りに着いたらしい。

 今の爆音は、救助が始まった狼煙のようなもの。

「お、誘拐犯のお出ましだ」

 床を蹴る幾つもの足音が聞こえる。前に出て並んだランカを、チェリンは流し見た。

「危ないよ? お嬢ちゃん」

「はい。でも、命の遣り取りは苦手だから…サンクチュアリ」

 ポワッと辺りに光の靄が広がる。

 見る間に収縮した淡い光が、繭のようにすっぽりと皆を包み込んだ。

「これって 障壁? 」

 チェリンの呟きが終わる前に部屋の扉が乱暴に開き、夜着にローブを引っ掛けた男と、部分鎧に身を固めた男たちが駆け込んで来る。

「おとなしく! ? 誰だ 盗人か! 」

 唾を飛ばして怒鳴る男は、身体中の脂肪を揺らしてチェリンを指差した。両脇を固める護衛らしき二人が剣を振り上げて斬りかかり、障壁に阻まれて、折れた剣もろとも部屋の壁へ弾かれる。そのまま起き上がれずに、呻き声を上げた。

「誘拐犯に盗人呼ばわりされるなんて、初めての経験」

 余裕で剣先を男に向けながら、チェリンが鼻で笑った。

「お前! そいつを捕まえろ! 俺が直々に殺してやるっ」

 急に命令されたランカは、自分の顔を指差して小首を傾げた。

「命令だっ。反抗すれば、お前が死ぬぞ! 」

「えぇ〜 あんたって おバカ? ねぇ、おバカなの? 」

 言われ続けて、自分も言ってみたかった言葉を吐き出す。少しだけ、胸がスッとした。

「なっ! おまえっ」

 男が何を言いたかったのか、結局判らず仕舞いだった。雪崩れ込んだ警備隊と比翼の剣に拘束され、あえなく誘拐犯たちは捕縛された。

「無事か、嬢ちゃん」

 冒険者ギルドで親切にしてくれた竜人族の男が、惚れ惚れするような笑みを浮かべ、部屋に入って来た。

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