壮行試合
「空いてる番号がこれしかなかったからね。何しろご本人が無駄に空けてるくらいなら俺にやってくれ、って言っていたらしいから。」
なるほど、たしかに先輩がつけなきゃそのまま事実上の永久欠番になってますよね。
「そうだろう?俺は永久欠番という概念が大嫌いなんだよ。背番号は代々受け継がれていくからこそ面白いのに。」
それは同感だ。背負った番号のドラマ。託される思い。あるいは自分の活躍で背番号に新たな意味を付与していく。それはロマンそのものだ。
「よぉ。俺をワンポイントでいいから
中里さんまで。ここは一発打たせて花を持たせてくださいな。それにしても投手で背番号6とか珍しいですね。
「空いてる番号だったから。」
いや、それ「ミスターマリナーズ」がつける番号ですやん。
とは言え、高卒1年目でレギュラーを難なく勝ち取ってしまうところが先輩方が凄すぎるわ。元チームメイト同士で新人王争いとか胸熱ですなぁ。
「だーかーらーお前が言うな。ただ今日の試合、最初から本気でいかないと後半俺たちが出るからな。」
なるほど。これは早めに活躍しておこう。
もちろん、これは「壮行試合」であり、さほどバッテリーも厳しい攻めをしてくるわけではない。
先発は今年絶好調な東北コンドルスの
今年⋯⋯いや、これまで人生で対戦した投手では最高の球。当たり前か。これまで対戦した高校生やマイナーリーガーと比べるだけ失礼だ。なぜ彼を日本代表に選ばなかったのか?これこそが最大の謎である。
ただ球質は最高だが「勝負」のピッチングではない。そこに付け入る隙がある。いや、壮行試合なので付け入る隙を「わざわざ」開けてくれているのだ。
コースを気にしない全力投球。こちらも魔法をしっかりかけてのフルスイング。当たった。アニメなら「行っけぇーーーーーー!」ってなる感じ。
狭い東京ドームでありえない角度で打球が上がる。二年振りの「スピーカー弾」。
「そこまで飛ばすかよ」と言わんばかりに苦笑いを浮かべた岩熊さん。
「
代表チームは俺の2本塁打を含め7対1で6回を終えた。ここで捕手が山鹿さん。二塁に能登間さん、三塁に伊波さんがつく。うわ、嫌な対戦相手だな。
しかも二番能登間、三番伊波、四番山鹿。
くーーーーー。シビれるわぁ!いやいや、俺がシビれてどうすんねん?7回には山鹿さんの本塁打で2点返される。
しかも俺の打順が巡ってくる7回、ついに中里さん登場。強靭な足腰に支えられた地面スレスレからの
バッター俺。ねぇ、これ「壮行試合」ですよね?まあこんなすごいアンダースローがいるのは日本だけなんで。中里さんは俺を遠慮なく指さす。
「もう、今日は2本打ってるからええやろ?」
中里さんの第一球は普通なら尻餅をつくレベルのインハイ。これくらい避けられんでどうする?と挑発するレベルだ。これが「俺限定」の壮行試合。くっそ、ひしひしと「愛」を感じるぜ、まったく!
久しぶりの山鹿さんとのコンビのくせに息ぴったりのバッテリー。前世の俺の表現なら「
2B2Sから待っていた
「あのう、今日は壮行試合なんですけどね。」
振り返って愚痴った俺に山鹿さんは
「世界は厳しいぞ!それを教えるのも先輩の務めだからな。」
と穏やかな笑みで返してくれた。
「
悔しいがそうとしか言えんわ。
たとえ契約金で70億円取った「イキッた」後輩に対しても、ここまで本気を出してくれるものだろうか。ありがたいことである。
翌日はセ・リーグ相手の壮行試合。住居さんはまだ二軍暮らしなので出て来られず。俺はここでも2本塁打を放ったが8対7と敗戦。
明らかに調子が悪い
干野監督の采配が少しヤバいかも、と思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます