再び日の丸を背負うために頑張ってしまった。

新しい門出と新しい目標

 甲子園が終わった。ただ終わったら終わったで忙しい日々は変わらない。今回は優勝報告のため県庁へは3年生が、市役所には1,2年生が向かうことになった。


 なにしろ新学期まで10日無い。俺は宿舎で夏休みの宿題を済ませていたが、まるっと残しているやつも多い。


 シニアを卒団した中等部3年が高等部の練習に合流。大学のセレクションに挑む3年生、また秋の国体に出場が予定される3年生も引き続き練習に参加するのでかなりの大所帯に。


「健さんは主将キャプテンはやらないんですか?」

安武トラ小囃子ミッツが聞きにきた。

「すまんな。冬にはアメリカにまた行くつもりだからな。チームに迷惑はかけられないし。」

「監督が困ってましたよ。他に適任者がいないって。」

「やりたいやつはいるだろ?適任かどうかは知らんが。」

「もう。それで困ってるんですってば。」


 監督にとっては新体制の構築は毎年頭が痛いだろう。俺の場合は6月のメジャーのドラフトで上の方にかかったらアウトだもんな。もちろん下位ならお断り。雀の涙の契約金じゃ借金返せないもん。もちろん、上位でも契約なんてしたら高野連にクビにされる。つまり夏の甲子園は予選すら出られない。それこそ主将の途中退場なんてあってはならない。


 結局、中学は胆沢が主将だったので今回は凪沢が務めることになった。順当と言えば順当だ。例によって胆沢の父ちゃんが騒ぎ出したが、さすがに甲子園4回優勝のチームがゴタゴタするとなると週刊誌レベルで「お家騒動」なんて書かれてしまうネタになりかねない。そこはケント理事長の強権発動だった。


 チームの目標はとりあえず秋の関東大会4強。つまり春の甲子園の出場だ。さすがに黄金世代が抜けた穴は流石に埋まらない。ただ、安武トラたちの世代もシニア全国制覇を経験したかなりの黄金世代なので戦力的に甲子園出場までなら心配は無いだろう。そうは言っても俺たちだってシニアの選手権で準優勝なんだから谷間世代の割には頑張っているんだけどね。


 それよりも困ったのがお約束の亜美とのデート。地元じゃ歩いているだけで声かけられるし、どないすんねん。面が割れまくって中学生の時みたいに無邪気に公園デートなんてできないし。


 そこに「救いの手」を差し伸べてくれたのがケント。

「ウチでデートしたらいいよ。⋯⋯亜美に記憶が完全に『戻った』んでしょ?」

正確には戻ったんじゃなくてコピペされたと言った方が正しい。ケントは異世界の思い出話ができることが楽しみで仕方ないようだ。これは俺にとっても亜美にとっても都合が良かった。


 「ハロー、ケント!若くなってるね!」

ケントとは初対面ではないが、記憶を「持ってこられて」からは初対面だ。自然とハグしていた。

「そうだろう?亜美はすっかり綺麗になったね。」

さすがアメリカ人。女性を褒めますな。


 俺は決勝戦で「魔王のカケラ」の停止に協力してくれたことに改めて感謝した。あの魔法を平安高校のメンバーがどのように入手し、使えるようになったのかは知るよしもない。


胆沢リュウジはまた魔王になっちゃうのかな?」

心配そうな亜美だが、

「それはない。ただ無意識というか潜在意識下で悪さはしてしまう。それを封じるための魔法具なんだよね。だから悪いけど魔法の充填だけお願いするよ。」

「わかった。⋯⋯そう言えば、大会前の健がいつもやってくれた『おまじない』も実はガチの魔法だったんだね。また次の大会前にお願いするね。それに来年はワールドカップだし。」


 ケントの家の広々としたリビングで三人で朝からぶっ通しで語り合う。主に亜美が見た夢へ俺とケントが補足説明をしていく形だ。もちろん、俺たちが異世界で「死んだ後」の世界の情報は女神を通して聞いていたが亜美からの補足説明を聞いて知ることも多かった。


「なんか変な感覚。あんたとの付き合いはちょうど10年くらいなのに、記憶はその倍あるんだもん。ま、とりあえず長生きしてこっちのパパとママには親孝行しなくちゃね。」


 結局夕飯までご馳走になり、帰りは奥さんに家まで車で送ってもらった。別れ際、

「健、そう言えば私ね、主将キャプテン任されちゃった。また、色々相談に乗ってね。じゃあ次はシーズンオフに!」


「うん。頑張れよ。またね。」

そうか。もう


 そして、秋の県大会は我が校は地区予選が免除になった。これで遅れた新チームの立ち上げに時間を割ける。


 さらに9月10日。俺は「アジア野球選手権大会」日本代表の1次候補の追加招集された10名の一人に選ばれた。その大会は来年のオリンピックに日本代表が出場権を得るための大事な大会だ。

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