栄光へのきざはし
準決勝と決勝戦の間には1日の休養日が挟まれる。というか梅雨時に戦う夏の甲子園の予選はある程度予備日を組み込んでおかないとカツカツになってしまうのだ。
俺はこの日、ケントのアポイントメントを取っていた。俺の進路について、亜美とのこれからについて相談しておこうと思っていたからだ。
「健、今のキミは前世のキミの
「かなり欲張りな男、かな。あれもこれも全部盛ってるパフェみたいな感じかな。」
俺のたとえがおかしかったか、ケントは大きな声で笑った。
「
俺が述べるとケントは頷きながら聞いてくれた。
「なるほど。ケリーの言うことももっともと言うか、相変わらずアメリカ人の傲慢さを感じるね。
うん。アメリカの傲慢さとか言いつつ日本流の傲慢さの象徴とも言うべき「コネ」をフル活用とか笑える。いや、ぜひお願いします。
「それと、亜美の声が聞こえたと言っていたけれど、その時は魔法が発動していたのかな?」
「選球眼」が発動していただけだけど。
「ふむ。その選球眼魔法を発動して見せてくれ。少し術式を解析すればヒントが出るかも。」
ケントは「鑑定」で俺の術式をスキャンすると少し首を傾げる。
「これは⋯⋯少し時間をちょうだい。解ったらすぐに教えるから。」
そこに秘書さんが来て次の来客を告げる。俺は立ち上がって礼を述べる。
去り際ケントが俺を呼び止めた。
「健、今日は忙しくてごめんね。またゆっくり話をしようよ。それと⋯⋯もう良いんじゃないか?」
「なにがです?」
「手加減だよ。甲子園では本気でやってごらん。そうしたら五輪のセレクションにもキミを呼びやすいから。」
いや、手加減なんてしてませんて⋯⋯。いや、胆沢の「魔王のカケラ」を刺激したく無くて控えめにしているのをそう捉えられたか。
さて、調整がてら部活に出るか。そこで俺は東郷監督に呼ばれる。
「明日の決勝戦だが、先発は沢村、お前で行く。」
はい?中里さんに何かあったんですか?
監督は首を横に振る。
「いや、今回予選で危ない
「了解しました。」
断る理由もない。
決勝の相手は浦和学園高。県内屈指の強豪校である。
梅雨明けが間もなく宣言されるであろう空は青く、太陽は容赦なく照りつける。
そんなスタンドに大勢の観客、応援する生徒たち、また父兄たちが詰め掛ける。陣営は違えど目指すは共に甲子園。
今日は相手の打席に関係なく左で投げる。というのも後続の中里さんが右腕だからだ。一番バッターはセーフティバントの構え。魔法によって導き出される美しい投球フォーム。アウトローへの4SB。バントとの構えを解いて見送るもストライクのコール。
電光掲示板の150km/hの表示に観客がどよめく。ただ、打者は首を傾げた。あのコースがストライクなことに驚いたか。山鹿さんはこの球審の癖を分かっているのだ。
いや、でも左で150km/hは公式戦では初めてなんで俺もちょっと感慨深い。
そのまま三連続三振で初回を切り抜ける。
相手投手も左腕なため、俺を意識してしまったようで初回から飛ばしてくる。いやいや、俺が2回で降りんの知らんのかな?マイペースで行かんとばてるぞ。
俺は2回も4、5、6番を連続三振で終え、そのままマウンドを中里さんに譲る。
「こいつぅ。俺への
そりゃそうでしょう。四番手投手の俺なんて「四天王最弱」なんですから。
最初の一巡は共に無安打で終了。4回の攻撃から試合が動き始める。伊波さんと能登間さんの連続2塁打で簡単に先制。ここは本塁打で投手の気分を仕切り直させるより2塁打でさらに追い込みましょうか。これで2点目か。
あれ、山鹿さん敬遠されたよ。いつも笑顔の住居さん、⋯⋯目が笑ってるけど口元が笑ってねー。
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