凱歌をあげろ。
恐ろしく広い守備範囲と恐ろしい強肩。こんなんヤバすぎるやろ。
そして7回にも真田が内野安打で出塁。犠打や安打で1失点してついに4対1。
しかし、なぜかここで相手監督が動く。なんと疲れが見えてきた大伴さんと真田を入れ替えたのだ。そういえば真田は第二投手だったわ。俺たちは笑いそうになった。
真田はその鉄砲肩よろしく速球派投手だった。しかし、怖かった中堅手はもういない。MAX 140km/hでも低めにしっかりとコントロールされたボールと完全無欠の中堅手だからこその怖いチーム。その利点を自ら捨てるとは。相手がそれに気づく前に叩いておかねばならない。⋯⋯
たかだか10km/h程度速くなろうが、キレの無い速球などただの「棒球」。伊波さん2塁打、能登間さん2塁打で1点返す。打者俺。外を狙ったはずの直球が逆に入る。魔法をしっかりとかけた俺のカウンター魔法が炸裂。打球は電光掲示板に直撃する2点本塁打。あっという間に同点にすると続く山鹿さんが右翼席に、さらに住居さんが左翼席に放り込む。怒涛の3連発で一気に逆転。ご自慢のストレートかもしれないが我々にとっては「打ち頃」でしかない。
ようやくここで監督さんは真田を諦め、再び大伴さんを戻す。しかし打たれて動揺した真田は守備でも打席でも精細を欠く。9回、真田が再び内野安打で出ると俺がリリーフ。左投手は一塁牽制しやすいためリードが取りづらく、二塁盗塁を図るも山鹿さんが二塁で刺した。さすが名二塁手能登間さんとの連携は見事。ワンポイントで俺はマウンドを中里さんに譲ると最後は内野フライ。伊波さんがガッチリ掴んでガッツポーズ。試合終了!6対4の逆転勝利。
ついに全国制覇!
中里さんに周りに輪ができる。もちろん、まずは試合後の礼だ。校歌を歌い、その後は表彰式(閉会式)。伊波さんの手に紫紺の優勝旗が手渡される。そして一人一人の首にはメダルがかけられた。
真田が号泣していた。リリーフで三発被弾で逆転を許すという屈辱的な結果だ。これまでは通用していたのだろうが相手が悪かった。きっとかれも夏までには一回り成長してくることだろう。
彼だけではない。再び王者に返り咲いた青学は、全国すべての強豪校からの標的になる。制服に着替えた俺たちは優勝記者会見で一人一コメントずつ求められた。
「夏に向けて問題点を洗い出し、一つずつ取り組んでいきたいと思います。」
伊波さんのコメントに皆唖然とする。マジメだ。マジメか。皆の心の声が響くようだ。
帰りは新幹線。東京駅で解散。明日は1日だけの春休みなのだ。群馬の実家に帰る山鹿さんは上越新幹線。東京が実家の中里さんや凪沢はここでお別れ。他にも実家の地域がバラバラなのだ。俺はなぜか胆沢と二人、高崎線の同じ列車に乗っていた。二人とも終始無言。駅での別れ際、
「お疲れ。」
俺がそう声をかけると
「おう、お疲れ。」
そう言って去っていく。
帰りついた家は真っ暗。メールをチェックすると親から「虎吉」(安武のお母さんの実家の居酒屋)で祝勝会があるので出てから明日帰ります。となっていた。マヂか。主役抜きで祝勝会とかウケる。まあ泊めてもらった恩義もあるだろうし。
その代わり何でも出前を取っても良いとなっていた。この時間じゃなぁ。かと言って自転車で回る寿司屋に行くのもなぁ。田舎街だからなんにも無いし。冷凍ピザをチンして食す。それが俺の祝勝会であった。
亜美からもお祝いメールが入っていた。明日会える?とあったのでもちろんOKとしておいた。
もちろん、大会がおわってからのスケジュールもある。市長や県知事への表敬訪問とか、後援会の祝勝会とか春休み中に済ませなければならないことも多い。明日はその唯一の休みだからだ。
ただ、どこで会おうと思ったがさすがに地元で有名人になったであろう俺が目立つかもしれず、亜美の実家に行くことにしたのだ。
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