再びアメリカへ!

 「健、おかえり!」

アメリカの同級生ブラザーどもは相変わらず陽気だった。


「ハッピー、バレンタイン・デー!」

 俺に向かって両手を差し出す欠食児童ゾンビの群れ。オマイらそれは来月だ。

「ノー!」

お土産のお菓子を当てにしていたゾンビどもの慟哭どうこく。笑える。

「心配するな、ちゃんと用意してある。一列に並べ、。」


「イエス、サー!」

 日本の錦鯉かこいつら。餌付けをしていると帰ってきたなあという実感が湧く。今回、アメリカの側に俺を留学させたいわけがあるのだ。


 アメリカでの競技実績があり、アメリカ国内の高校を卒業していれば俺はメジャーリーグのチームからのドラフトを受ける資格が発生する。


 このアカデミーは青学での単位が認定されるため、卒業はできる。日本では学校の二重籍は認められないがアメリカでは問題ないのだ。


 そして、州のリーグ戦に参戦していれば競技実績もできる。俺をドラフトで合法的に獲得するためのアメリカ側の作戦だ。もちろん、メジャー球団には国内以外の選手とマイナー契約する自由があるのだが、相手がこと日本になると問題が大きくなるための手段だ。


 ただ、これには一つ大きな問題がある。アメリカでも日本と同様、プロ志望届けを出す必要がある。それは5月中旬までとされている。しかし、それを出してしまい、6月に行われるメジャーからのドラフトで指名されると最後の夏の甲子園への出場資格が無くなるのだ。つまり来年の6月、俺は決断を迫られることになるのだ。甲子園か、メジャーか。


 まあそんなことはその時決めればいい。俺が今の自分で満足してしまい、進化の足を止めればそんな話はなかったことになるだけのこと。どちらにもそっぽを向かれるだけだ。トレーニングし、経験を積み上げ、成長していかなきゃならんだけなのだ。とりあえず選択肢を増やしておくに越したことはない。


 秋から始まったリーグ戦は2月いっぱいまで続く。俺はすぐにトップチームに帯同して試合ゲームに参加することになった。


アメリカには高校生の全国大会は存在しない。最高はステートチャンピオンである。ちなみのフロリダはチーム数が多いので州が南北で2つに分けられている。最高で南フロリダチャンピオン。


 州はいくつかの地区に分かれてその中でリーグ戦を行い、地区チャンピオンを決め、さらにそこからトーナメントで州チャンピオンを目指す、ということになるのだ。


 とは言え、毎年ころころとシステムが変わるので一概にこうだ、とは言えないのだ。なぜなら、べつにチャンピオンになることは大切だが主な目的は大学やメジャーへと進むことだからだ。


 だから決して選手に無理をさせることはない。そしてとにかく試合をする。練習よりも試合重視。さらに1チームの人数を減らしだいたい15名程度。そして試合には全員出場。ちなみに青学も実戦形式の練習が多く、練習試合の数が多いのも同じだ。


 試合が多いのは良いが、バス移動がきついことがある。硬い座席シートに座って何時間も揺られるのは苦痛以外の何物でもない。日本のように滑らかな舗装をしてくれているわけでもなく揺れも酷い。それに足も伸ばせないし。この時だけは伸ばした身長がうらめしい。


 異世界の時ははじめのうちはマイクロバスそのものな魔動馬車だった。だんだんみんなで工夫していって快適な乗り心地にしていったんだが。どうにかバスでもできんものか。


 足を伸ばすのは比較的容易だ。収納魔法を使えばいいのだ。となりのやつに見つからないように収納空間に足を突っ込んで見る。おお、これはいいぞ。めっちゃ伸ばし放題。


 座席シートの揺れはどうか。異世界の時は確かスライムの一種を低反発素材に使っていたんだよなぁ。さすがにアメリカでもスライムはいないよなぁ。何か魔法を付与すればいいかも。今度ケントに相談してみよう。


 野球漬けとも言える生活だが、日中は日本と同様きちんと授業がある。野球だけで食っていける人間なんて限られているし、現役引退の後の人生の方がはるかに長い。だから勉強もしっかりさせられる。ただ、習熟度別に分けられるので意外に落ちこぼれることはない。まあ、すごい大学を目指すのも無理なんだけどね。


 「健は将来どうすんの?」

よく友人たちから聞かれる。これはメジャーを目指すとしてその後の、という意味だ。


「野球がダメなら大学に入って日本で英語の教師でもするよ。」

そう答えても腹の中ではみんな同じことを考えている。

「メジャーの年金で楽隠居に決まってるさ。」 


 





 

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