ハイスクール・ボーイ

 10回表、無死無走者。まあ早い話が先頭打者。新人の代打の起用としては打って付けである。


 「健ちゃん、気楽に行ってこいよ!」

みんな半笑いである。まあお手並み拝見というところか。ではそれなら遠慮なく。何しろ今日は魔法を使ってないもんだからモリモリにかけちゃおうかな。


 加速ヘイスト・視覚情報処理。体力倍加エンハンス遭遇率エンカウントアップ。一撃魔法クリティカル


 相手投手も代わったばかりなので情報がないけど行けるでしょ。


 MCが俺を紹介する。まあウグイス嬢に実況アナウンサーを足した感じ。そうやって応援を促すってカンジなのかな。俺が現役高校生であることに歓声があがる。


 ただ台湾球界は国の代表に何度か高校生をぶっ込んだことがあるので、そこまでサプライズということではないらしい。ちなみに中国語であるため、こちらのチームで何人理解できているかはわからない。


 左打席の俺にぶつけんばかりのカーブ。すごい落差だ。一応のけぞっておく。二球目もインサイドでボール球。一応、怖がっておく。そんな「どうだい?少年ボーイ」というドヤ顔はやめなはれ。死亡フラグですって。


 いわんこっちゃない。アウトサイドに速球かい。踏み込めるんだよ。あ、すごいの当たった。珍しく魔法が同一時に発動する。これ、東京ドームの天井スピーカーに当てて以来のあたりやん。


 試合会場の台中スタジアムは改装前は狭い球場で「投手の墓場」なんて言われていたそうだ。今回のインコチ杯のために国際規格に合わせて改装されたそうだがそれでも狭い方かな。


 打球はスタンドを超えていった。いわゆる場外本塁打。


ダイヤモンドを一周するとベンチ前でみんながお出迎え。

「まさかホントに打つとはね。」

「いいとこみんな持っていきやがって。(笑)」


 みんなの俺を見る目が一気に温かくなった気がする。というのも、俺をよく知らない選手たちにとっては、話題作りのために無理やり押し込まれた、という印象が強かったのだろう。


 だが、少なくとも存在が認められたのは確かだ。マスコットとしてではなく、戦力として。そして弟分ではなく競争相手ライバルとして。


 試合はこのまま逃げ切って4対3で勝利。初戦を勝利で飾ることができた。

「健ちゃん、絶好調だな。」

大窪さんがほめてくれた。今日は2番中堅で先発してたのだ。

「大窪さんも初安打っすね。……って長丁場ですし、彼女さんとの電話は控えめにしてくださいね。」

「うるせえよ。」


 翌日は新しい「インターコンチネンタル球場」でナイトゲーム。開催国の台湾代表が相手の試合だからだ。


 試合は台湾が2点先制、その裏に日本が追いつき、次の回に1点勝ち越すと8回に再び追いつかれるというシーソーゲーム。


 8回裏、4番の瀬郷さんがソロ本塁打を打って勝ち越しに成功。9回は福森さんがきっちり抑えて快勝。残念ながら俺に出番は回ってこなかった。


  自国チームが負けてしまっても、台湾のファンはきちんとこちらにも拍手をくれた。さすが、ホスト国はこうでなくっちゃね。


 2連勝で割とチームの雰囲気がよくなってきた気はする。翌日もナイトゲーム。というのも南高麗戦だからだ。日本ではテレビ中継なんて専門局だけだからな。それで練習用に借りたグランドでチームで軽く調整する。


「健ちゃん、南高ナムコのテレビ局が話を聞きたいってよ。」

はあ。練習合間に監督に呼ばれる。作り物かってくらい美人なお姉さんとテレビスタッフ。多分美容整⋯⋯げふんげふん。


 コーチに同席してもらって10分ほどインタビューを受けることになった。通訳さんを通すから内容は半分くらいだろう。ごめん、ほんとは通訳いらないんだけどね。


 最初190cm近い身長の俺を見てなんか違う……感を出してくる。ジョニーズみたいのを期待していたのだろうか。まず同級生の反応を聞かれる。


「10日以上も合法的に学校がさぼれて羨ましいとは言われます。」

お、ウケた。ついで南高麗代表の印象を聞かれる。


「いや、まったく存じ上げません。代表の最後の一人として急遽追加で呼ばれたんで。勉強不足ですんません。」


 あれ、お姉さんの顔がくもる。「最大のライバル」とでも言っておけばよかったか。ついで南高麗の印象も聞かれる。

「いや……母が南流ドラマをよく観てたんじゃないかな。俺はテレビは全く観ないのでちらっと見ただけですけど。」

どのドラマ?と聞かれて困る。なんだっけ?DVDのパッケージを思い出す。

「こういうやつです。」


上を見上げて口を半開きにして……調子にのって「変顔」をしたらお姉さん大爆笑。ああ、よかった。……でも、あまりよくなかったらしい。




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