「助っ人」に呼ばれた日。
亜美の挑戦はつづく。
8月2日の第3戦のキューバには15対0のコールド勝ち。アマチュア野球の男子では強豪国だが女子野球はまだこれからなのだろう。亜美も4安打放つが打点は1。つなぎ役が多かったようだ。
翌日の第4戦のカナダに6対3で敗れる。打ち疲れたのか。
第5戦のオーストリア戦は11対6で勝ち、そして最終戦のアメリカには11対13で敗れて4勝2敗で終わった 。結果は準優勝。カナダ、オーストリアと勝ち数は並ばれたが「失点率」で2位だったのだ。
亜美は打率.678、本塁打8本、打点20で3冠王になる。そして
惜しむらくは世間の関心がなかったことか。残念ながら女子硬式野球は五輪種目には選ばれなかったためだ。メダルどころか出場できない種目に関する関心は薄い。
俺が銀メダル(準優勝)をお祝いしに亜美の自宅を訪れたら、これからすぐに寮に戻ると言う。
「これから?」
「うん。兵庫県。」
「甲子園?」
「それは健の学校じゃん。健こそ行かなくていいの?⋯⋯あ、ごめん。」
亜美も俺がまだ出禁中であることにきづいたようだ。
「全日本高校女子野球選手権」に出場するためだ。今回10周年の記念大会なのだと言う。
「あ、でも女子の硬式野球部がまだ40も行かないから旅費さえあればほぼ出られるし、部員が足りなければ連合チームもありなんだ。大会も去年まで埼玉でやってたのにね。」
「頑張ってね。」
「うん。
実は俺も良いニュースがあったんだけど。
ちょっと場面は
学校は夏休みに入り、今日は水泳トレーニングを受けていた。
「4年沢村健、理事長室へ。」
一貫校なので高一は4年生になる。
「すみません。お待たせいたしました。沢村です。」
俺が理事長室を訪れると、ケントが待っていた。
「健、君に良いニュースと悪いニュースがある。どちらから聞きたいかね?」
アメリカ人てドラマじゃなくてもこういう言い回しすんのか⋯⋯。
「じゃあ良いニュースから。」
「君が東京通運から『補強選手』に指名された。」
はあ。言っている意味がよく分かりませんが。
補強選手とは都市対抗野球独自のルールで予選に参加した同地区のチームの選手を3名まで自チームの選手として本大会に連れて行けるという制度だ。「都市」の代表だから同じ都市(実際には地区)から連れて行けるというわけだ。
説明を受けた俺は個人的にこの制度を甲子園にこそ取り入れて欲しいと思ってしまった。都道府県の代表という形だし。過密スケジュールでも良い投手を連れて行ければ対応できる。
「つまり僕が本大会に出場できるというわけでですね。」
「その通りだ。」
まあベンチに入れるだけ良いということか。じゃあ悪いニュースとは?
「それは君に拒否権がないことだ。これは
別に是非もない。社会人野球の頂点に当たる試合は自分にとってプラスになるのは間違いない。
「別に嫌とは言っていませんよ。予想していなかったので驚いているだけです。」
「東運は南関東でも第3代表だからこそ本気の補強をするつもりだろう。名誉なことだよ。君にとっても我が校にとってもね。」
とりあえず監督さんに挨拶の電話をかけ、練習の日程を聞く。そしてユニホームとキャップのサイズを聞かれる。こちらが夏休みで良かったとしか言いようがない。費用は会社持ちでビジネスホテルに部屋を取って週末の練習に参加することになった。
「ニュース」への亜美の反応。
「へえ、そんな制度があるんだ。うちの学校も男子部員借りたいや。⋯⋯違った。本大会出場おめでとう、だね!」
「ありがとう。お互いに頑張っていこうぜ。」
亜美、男子部員借りたらダメやろ⋯⋯。
全深谷市のチームのみんなが壮行会という名の宴会をしてくれた。
「あーあ、これで健ちゃんも全国区かぁ。サインちょうだい。後でオクにかけるから。」
「健ちゃんを育てたのは俺たちだ!」
いや、
そしてホントに色紙を持ってくる。俺サインなんて書いたことないし。
「なに言ってんのぉ。野球をやるやつは絶対自分のサイン考えてるでしょうよ。」
思い出しつつ書いて見る。それを見てみんなが大笑い。
「健ちゃん、これじゃ昭和50年代のアイドル風じゃん。古ーい、いや、懐かしい。」
だから俺の中の人はその世代なんですって!
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