荒れ球投手を意のままに操る捕手を倒せ。(2回戦)

 

 しかし、1回戦の会場だった久宝寺緑地球場は大阪の東側でUSJとは反対方向。宿舎のホテルに帰ってもなぁ。ゴンザくん騒動のせいで俺たちまで叱られるというとばっちりを受けたせいで予定よりも帰りが遅くなってしまった。


 あまり気分のいい話ではないのでホームランを打ったくらいで亜美と美咲のUSJの話に耳を傾けていた。まあさほど羨ましいと思わないところが救いだったが。


 明日は母と妹は亜美と共に京都に行くそうだ。お前ら、俺の応援に来たという設定はどうした?楽しんでもらえてるならまあいいのか。パパは応援に来るかと思いきや俺におねだり。

「ねえ、パパ甲子園見に行ってもいい?」

ああそうか、今ちょうど春の選抜高校野球の最中かぁ。行ってもいいけど俺の試合はどうでもいいのか?でもせっかく観るなら甲子園だよね。レベルが違うもんな。

 俺がOKするとそれはそれは嬉しそうだった。たまにはこれも親孝行だろう。


 2回戦の相手は高知市。四国代表だ。四国も野球どころで有名である。俺の中の人は徳島県の池田高校の蔦監督なんて思いだしちゃう。


 高知は西日本でも有数の強豪チームらしい。試合で当たったことはないが山鹿世代でもすごい選手がいたみたいだ。

「今日はよろしくお願いします。」

ゴンザ君の後は誰が来たって「紳士」に見える。


 主将の犬養太知いぬかいたいちは眼鏡をかけた知的な佇まいの少年だった。

「おたくにはほんとうに守護神といえるリリーフがいて羨ましい。」

「あ、恐れ入ります。」

褒められ耐性のない俺がしどろもどろになる。


「今日は全力で。」

「はい、全力で。」

感じいいなぁ。ゴンザ君の……以下略。


 今日の会場は兵庫県三田さんだ市の城山公園球場だ。ちなみに家政婦ではないので「みた」市ではない。


 投げるのは左腕サウスポー大神亮輔おおがみりょうすけである。捕手が主将の犬養。大神はかなりの荒れ球で、先程の紳士的な態度はいったい⋯⋯という感じだ。


 しかも荒れ具合が捕手のリードの範疇はんちゅうの内にある。つまり何も考えずに投げ込む投手を意のままのコースに投げさせているのだ。つまり「狙え」と指示したミットの位置めがけてボールを投げると捕手が欲しい場所に球筋コースが行くのだ。


 俺の場合、左打席に立つことが多いため、彼の持つ俺に関するデータはそう多くないはずだ。とは言えそれはこちらも一緒。荒れ球の解析に手間取って2打席を費やす。試合は俺の四球を足がかりにした5番祐天寺のタイムリーで1点、凪沢ナギも向こうの巧みな走塁にかき乱されて1点献上。1対1で最終回までもつれこんだ。


 予測不可能な荒れ球……。どうしたらいい?天然暴投投手を意のままに操る天才捕手相手にどうすればいい?


 最後の打席。俺はイチかバチかの賭けに出る。命中率アップ魔法を俺にではなく相手投手の大神にかけたのだ。こいつはど真ん中狙ってもど真ん中にいかないタイプなのだ。だから最初に犬養に指示されたミットの場所を目指してボールを投げる。すると捕手の欲しいコースへ行くという算段だ。


 ならば最初の指示通りに投げさせればいい。


 すると大神の球はど真ん中に来た。俺の振るうバットの真っ芯がボールを捕らえる。そのまま振り抜くと打球はレフトスタンドに。打たれた大神よりも捕手の犬養が呆然としていた。そりゃそうだろう。最初に「狙え」と指示したミットの位置に生まれて初めてそっくりそのままの軌道のボールが来たのだから。


 大神の「命中率」があがれば荒れ球どころかただの棒球。ピッチングマシンなみの打ちごろボール。つづく4番胆沢にも二塁打を打たれた時点であきらめた相手チームの監督が大神をひっこめた。


 さらなる追加点はなかったが俺がリリーフにあがって3人でしめて試合終了ゲームセット。魔法を使えない相手に状態異常魔法デバフをかけるのは「マナー違反」だと思うが支援魔法バフならいいよね。


 さて、試合が終わって宿舎のホテルに戻っても家族が帰ってくるまで時間があるので寝るか⋯⋯。


 食事の時間、家族みんながしょんぼりしていた。あれ、京都楽しくなかった?甲子園は?


 どうやら両親が俺の応援に行ってないことがバレて爺ちゃん婆ちゃんたちにこっ酷く叱られた模様。息子の晴れ舞台に応援しないとは何事だと。

「ゴメンね⋯⋯。たまの家族旅行ではしゃぎすぎちゃった。」


 考えてみればそれが普通の反応だわなぁ。でも小さい頃から習い事やら一貫校に行かせてもらって負担をかけているわけだし、たまには羽を伸ばすのも良いと思っただけなんだけどな。


「それを子どもに言わせるには、まだ10年早いって怒られた。」

うーむ。なるほど正論ではあるな。じゃあ、気を取り直して。


「じゃあ、3回戦あしたは観に来てくれるかな?」

 「いいとも!」

昭和・平成と共に変わらないネタで家族の一致団結を誓ったのであった。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る