二回戦の相手は策士。

 二回戦は所沢市の航空公園野球場に場所を移して行われる。圏央道ができてめちゃくちゃ近くなったよなぁ。昭和の頃は大変だった。


 相手は同じ関東連盟代表だが所属支部が違うのでこれまであまり顔を合わせないチームだ。東関東の我孫子市あびこしだ。RJ常磐線の方向幕でお馴染みである。


 エースの3年「諸星郁也もろほしふみや」は左腕投手サウスポーだ。

シュッとした感じのイケメンである。息子に「郁也」と名付けるなどさてはパパかママは年代的に「チェッカーズ」のファンに違いない。俺の中の人が勝手に確信していた。


 「きみが沢村君か、データより背が伸びてるね。同じ同士仲良くしようよ。」

俺の身長は175cmに達していていまだ伸びる速度は衰えていない。成長痛が少しうっとうしい。俺はあいまいな返事だけする。


 「僕はね、きみたち青淵学館のキーマンは沢村君だと思ってるんだ。今は黄金世代センパイたちの間に埋もれているけどね。夏が終わったら君の時代が始まるかもね。」

 うわ、こいつ怖っ。優しそうな眼だけど眼光鋭いやんけ。……ご期待にそえるよう頑張ります!俺は馬鹿っぽそうなあいさつだけしてその場を離れた。


「あいつはデータ野球の申し子だな。俺はあいつと話が合うから話してみれば多分お前とも合うんじゃないかな。」

 山鹿さんは大会が終わると「U-15」の日本代表の選考合宿に呼ばれている。昨年から日本代表のマスクをかぶっているので顔が広いのだ。


 試合は意外な展開を迎える。伊波さんをド真ん中のストレートでゴロにうちとり、能登間さんも三振。


 俺は右打席に立った。公式戦で左腕に当たったのは初めてだったので諸星さんは驚いたような顔をした。


 そしてなぜか俺とは勝負せず敬遠したのだ。目の前で俺を歩かせたことに力んだのか山鹿さんも凡打に終わる。


 先発の胆沢も身体の柔軟性が増したのが効いたのか快投を続け両チームとも得点無しが続いた。


 伊波さん、ど真ん中をまた三振。伊波タツさんwww

沢村サワ、今笑ったろ?」

俺は黙って首を横に振る。ワラッテナンカナイデスヨ。さ、守備にいきませう!


 4回は先頭の能登間さんの巧打が出て出塁。俺は送ろうかと思いきやまたもや敬遠。つづく山鹿さんが送りバントを成功させる。てか初めて見た。先輩のバント。


 続く住居さんが技ありの外野フライでなんとか1点先制。その裏今度は胆沢が失点し試合は振り出しに戻る。


 6回。次が最後の打席の可能性もある。2死走者無し。俺は右打席に立った。またもや敬遠。山鹿さんがヒットで意地を見せたが住居さんにあたりが出ず無得点。


 胆沢は打撃も上手いので先発の時は6番を任されている。そのため投手を岩波シンジさんにスイッチしても右翼手に回されるのだ。最終7回で決着がつかず、そのままタイブレークへ。


 タイブレークは決着をつけやすいようにノーアウト1、2塁の場面からはじまる。


こちらは1番からの好打順だが伊波さん完全に今日はだめ。三振。能登間さんが送り、打者バッター俺。またもや敬遠。1死満塁。山鹿さん、意地の犠牲フライでなんとか勝ち越す。


沢村サワ、行くぞ。」

俺はリリーフとしてマウンドにあがる。……右投手として。


「右っ!?」

 驚いたのは諸星さんだ。でもね、本来俺は右利きだし、先発二人が右腕なので需要の関係で左での起用が続いただけだ。データ重視の諸星さんなら左投手の俺はよく知っていても右の俺は知らないよね。


 そして制球は左が上だが速度は右の方が出る。今のところ140km/hくらいは出るかな。中学生相手なら十分である。戸惑う相手チームに対して三振と併殺ゲッツ―試合終了ゲームセット。2対1だ。


 準々決勝にこまを進めた。


「いや騙されたよー。ま、甲子園では負けないけどね。」

負けたのになぜか明るいんだよなぁ。まあこのレベルになると本番は「甲子園」と「プロ野球」であっていつかリベンジしてやるぞと腹の中は煮えたぎっているのかもしれないな。


「リベンジと言えば、大門のやつも勝ったそうだ。次はまた青山が相手だぞ。」

次はついに神宮球場だ。



 

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