思わぬ後輩と凄い先輩と。

「押……川?」

 あ、思わぬ再会に声が上ずってしまう。落ち着け俺。前世の押川は小中は別で高校が初体面だったはず。つまり今時点では顔も名前も知らない設定。


「あ、もう名前を覚えてくれていたんですか?嬉しいです。」

おぉ、前世の高校の時とキャラが変わってないな。

「あれ、髪はショトカじゃなかったっけ?」


「むぅ。センパイもパパと同じこと言ってる。自分の好きなアイドルの名前を娘につける父親とかなんか微妙ですよね。」

 うん、元ネタが「原田知世」さんなのね。わかるわぁ。「時かけ」とか良いよね。いかんいかん俺の「中の人」が激しく反応してしまったのだ。昭和40年代生まれにとって「角川三人娘」は青春の一部なのである。(サイト運営者にこびを売る作者)


 俺の「中の人」も例外ではない。というかそれに反発して髪を伸ばしているの か。だったらポニテもいいぞ。嫌いな男はまずいない。


「考えておきます。それよりスポドリですか?冷蔵庫に作り置きストックがあるんで使ってくださいね。」

お、サンキュー。あぁ生き返った。そういえば押川は『進学コース』だっけ?


「あ、はーい。ママが看護師なんで私も憧れてたんですけど、理学療法士もいいかな、って。先輩がプロになったら専属になって上げてもいいですよ。」

うん、お前がプロ(選手)のケアが任せられるような一流プロになれたらな。

「ええっ?そこは使いながら育てましょうよ。」


 彼女は「男と対等でいたい」亜美とは真逆な「男に寄生したい」タイプだ。もちろん良い男を捕まえるために自らを磨く努力は惜しまないので、同性には疎まれても男子には一定の需要がある。いやむしろ昭和時代だったら良妻賢母タイプの理想的な女性と言えるだろう。


 やれやれ今度は俺が標的にならタゲられないように気をつけねば。前世でも異世界でも補欠だったんで彼女には歯牙にもかけられなかったんだが今回は「攻略対象の一つ」らしい。そういや胆沢イサは真面目に柔軟やってるか?


「あ、はい。なんか目の色変えてやってるっぽいです。」

スーパーサイヤ人並みにか?

「センパイ、それだと髪の色も変わってますけど。」


 うん。ツッコミも完璧だ。男のボケに嫌がらずにツッコミを入れられるのはモテるな⋯⋯それは言わずに

 「それはよかった。柔軟性がつけば胆沢は間違いなくエースになれるな。そっちもチェックしておけよ。」


 そう言うと彼女はニヤリとした。俺は現在本命ではなく4番手か5番手というとこだな。さては先輩たちをにかけようとしているな。

 

 しかし、胆沢が必死こいて柔軟とかウケる。まぁ山鹿先輩はすごいな。煽り上手だ。完全に胆沢の性格を把握してる。実は先輩は軍学者の山鹿流の子孫だとか言わないよな。


 さて、関東連盟夏季大会。我らが青学はシードの2回戦から登場する。選抜覇者チャンピオンの御威光は凄いが絶対的エースの不在はチャンスとばかりにライバルは勢いづく。


「お前ら、中里がいなければ日本一てっぺんが穫れないとでも?」

山鹿さんが二回戦の辛勝後、うちのメンバーに吠える。


「確かに中里の離脱は痛い。だがそれは致命傷ではない!大智は必ず帰って来る。高等部で始まる甲子園5連覇に挑戦するためだ。それは俺たち3年生にとって夢でも何でもない。俺たちには頼りになる先輩たち、そして優秀な後輩たちがいる。高校野球に比べて中学は軟式、リトル、ボーイズなどに分かれてライバルは少ない。だから恐るな。俺たちに足りないのは自信だけだ。」


 全くその通りだった。俺たちが呑まれているのは「選抜優勝チャンピオン」という過去の栄光だけなのだ。そんな過去は未来へのただのステップに過ぎない。


 何この高揚感?かつて万年補欠が味わったこともない重圧と、それに増した充足感。

  ⋯⋯きっとチームの問題は今の三年が抜けた秋からなのだ。それは後で考えよう。今はただ「黄金世代」の威光に乗っかって先輩たちについて行けばいいだけなのだ。

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