敗者復活戦からの下克上!

 左打席に立った俺は「魔眼イーヴィル・アイ2.04」を発動する。あ、いつもの打撃に特化した視覚器官加速魔法ヘイストのことだけど中学生らしい痛いネーミングにしてみました。多分もう使わないな、言っててダサい。カッコつけても所詮は日陰の支援魔法。

 

 1球目はよく球筋が見えすぎてタイミング外してファール。そして2ボールストライクからの4球目。内角にクロス気味に入ってくる直球ストレートを右中間に素直に弾き返した。ランナー生還して追加点。本塁刺殺バックホームを諦めた外野手が二塁に送球して来たためそこでストップ。


ナイスバッティングナイバッチ!」

 先輩たちが大声を出してくれたが俺は首をかしげた。やはりまだパワーが足りない。リトルなら完全に本塁打だったはず。ただこれがダメ押しになってチームは勝利する。


 次の試合はベスト16入りをかけた大事な試合。しかし青学は5回途中0対3で抑えられていたところ2アウト2塁1塁のチャンスに俺にお呼びがかかる。

「最低でも四球を選べ。」


 ま、そんなもんだよな。相手投手ピッチャーはこちらの貧相な体格をみて少し笑う。しかも「木製」バットだしね。力押ししてくるのは予想出来た。内角を攻めて俺をのけぞらしてからの外角低めのボールををすくい上げる。残念ながらここで踏み込めるんですよ。バットの芯で球を捉えた瞬間に一撃魔法クリティカルをかけて振り抜く!


「ファール!?」

ファールかと思いきや風を切り裂いてボールは左翼ポールに当たる。同点3ラン。勝利を目前とした相手ベンチが静まり返る。


 俺のシニアでの公式戦第1号本塁打はわりと渋めだった。「1年坊」に、しかも「木製バット」で打たれてがっくりきたのかそのあと相手投手が崩れチームは勝利して16強入り。


 ところが、準々決勝でまさかのサヨナラ負けを喫す。全国の切符を獲るには敗者復活戦コンソルーションを勝たねばならない。0対0の同点で迎えた最終7回裏。終われば次からは塁に走者を置いたタイブレークが始まる。


 そこで代打にお呼びがかかる。

「最低四球で出塁して盗塁で二塁まで行け。」

監督の無茶ぶり。


  俺がボックスへ向かおうとすると三年生の主将で遊撃手ショート井土垣いどがきさんが俺に声をかけた。

「沢村、おまえに繋げればなんとかなるって気持ちでみんなで守ってきた。ここはなんとか頼む。」


 俺は息を深く吸ってから「はい」とだけ答える。「なんとか」ねえ。相手投手は今大会屈指の好投手。中学生ながら140km/h近いボールを投げる。高校生相手でも十分に通用するレベル。そしてボールが重い。いや俺の前世の時代だったら十分に甲子園レベルだ。


 速球に目は付いていくがパワーがついていかない。倍加魔法エンハンスを追加する。インパクトの瞬間、さらに一撃魔法クリティカルが発動し、俺の放った打球が一塁線を破った。俺は加速魔法ヘイストをかけて一気に3塁まで攻略する。


 最後はスクイズで本塁に生還。チームのサヨナラ勝ちに貢献した。


「沢村よくやった、全国大会でスタメンで起用もあるからな。外野は守れイケるな?」

と監督に告げられる。俺はどうやら兵器らしい。あれ、「ミニゴジラ」の二つ名とはなんだったのか?

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