異世界の旅と運命の出会い 編

異世界でも補欠?

 名前はともかく俺の能力スキルは「支援魔法」だった。

 自分から攻撃するというよりも、自分や味方の攻撃力を上げたり敵の攻撃を妨いだりするという地味で目立たない能力。


 「加速ヘイスト・体表硬化・倍加エンハンス・自動回復」と言った

強化魔法バッファ」。

そして「毒・麻痺・睡眠・混乱・恐怖」と言った「状態異常系魔法」。バッファに対する「デバッファー(デバフ)」もしくは広範囲の敵を足止めできるので「クラウドコントロール」とも呼ばれている。


 はっきり言うとあまりチームの役には立たないだろう。というのも俺のは一度の魔法で単体相手にしかかけられないショボいものなのだ。「5番サード」の中野が持つ「鬼神の咆哮」という能力が全体に一度に「バフ/デバフ」をかけられる、そっくりそのまま俺の上位互換なのだ。


 その世界の王様に引き合わされた俺たちは改めて魔王の討伐を依頼された。


 そして、俺たちを待ち受けていた男がいた。ガッチリとした体躯たいくの老騎士だ。

「ケント・バーナードだ。きみたちの先導者チューターを務めさせてもらう。」


 彼が魔王討伐の旅に同行して騎士道や戦闘、そして魔法の使い方を教えてくれるのだという。まぁ地図もろくになさそうな文化レベルの世界。右も左もわからない他所者である俺たちにとってはありがたい存在だった。


 俺とケントは名前が似ていることもあってすぐに親しくなった。彼も俺たちと同じ世界からの「転移者」であり、これまで長年召喚された勇者を何人も導いてきた。そして今回の任務で勇退するという。「シュッとしたドワーフ」って感じのお爺ちゃんだ。


 老人会の無双のゲートボーラーで全国大会のタイトルを総なめにした俺の爺ちゃんにどこかしら似ていた。だから俺は彼と大の仲良しになったのだ。


 旅は部活の合宿とあまり変わらないノリだった。村野監督が使える魔法は「魔動馬車」。多脚走行するバス、と言った見た目で魔王の城までの長い道のりを歩かなくていいというのは助かった。


  そして、俺のやっていることもいつもと変わらないどころか雑用ばかりだった。テントの設営と片付け。食糧や水の確保。燃料や必需品・魔法薬ポーションの買い出しや管理。。それがマネージャーである二人の女子と俺の仕事だった。そして道具や武具の管理補修。1日が終われば俺はみんなの防具や武器に魔法を付与エンチャントするのが日課であった。


 そしてマネージャーの亜美のスキルはかなり巨大な「収納魔法」が割り振られていた。だから亜美に重要でないアイテムをみんなが預けていた。

「ねえ、私が夜逃げしたらどうする?」

よく亜美は冗談めかして言っていた。


 そして2年生の女子マネ押川知世おしかわともよには収納魔法の冷蔵・冷凍版というこれまたレアスキルだった。彼女が食糧の保管の担当だった。だから

「お前が逃げても押川オッシーさえいれば食いっぱぐれないから」とよく返されていた。

「で、誰が料理すんの?」

の一言で論破必至であったが。


 みんなは1日の戦闘が終わり、飯を食ったら酒場に行くか女遊びに行くかのどちらかだった。俺はみんなが持ち帰った魔物モンスターの死体を解体して街のギルドに売るコインやメタルを回収したり、食用の肉に加工したりしていた。


「でもサワくんが居てくれて助かったよ。他の子は気が利かなさすぎてホントにダメ。みんな私とオッシーのことママかなんかと勘違いしてるよね。もう部活じゃないんだから少しは自分でやれ。」

亜美は口を尖らせる。


「いや、俺なんか戦闘は訓練しかしてないから全然レベルが伸びなくてお荷物扱いだからな。でも亜美の手伝いだけでも役に立っていれば気持ちが晴れるよ。」

俺が謙遜すると彼女はそんなことないよ、ありがたいって思ってると言いながら俺の頭を撫でる。

「髪、ずいぶん伸びてきたね。ボウズ頭、さわると気持ち良かったのに。ああ五厘刈りが懐かしい。」

女子マネあるあるらしい。俺は苦笑しながら言った。

「まあボウズはもういいや。」

昭和の球児は須らくボウズ頭だったからな。


亜美は嬉しそうに俺の頭をさらに撫でる。

「健はどうして街に行かないの?みんなみたいに。」

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