チートな学校に入学してしまった。

中学へ、思わぬ別れと再会。

 試験は見事に合格した。通算年齢32歳による学力的アドバンテージは早くも中学で使い切ることになりそうなので先に受験して正解だった。


 埼玉県立深谷青淵学館ふかやせいえんがっかんという中高一貫学校の中等部である。


 地元では「青学せいがく」と呼ばれる新設されて間もない学校だ。珍しい第三セクター方式(官民共同運営)の学校で、県が学校施設を作って管理し、私学が学校運営を委託されるという方式だ。


 ちなみに校名は地元が輩出した偉人であり新1万円札の肖像に決まった渋沢栄一翁の雅号から取られている。


 当時の「ゆとり教育」の方針にしたがっていて陸上競技、野球、サッカー、ラグビー、バレーボール、テニスなどを高校受験の中断なく練習できるというメリットがあった。


 そしてスポーツ医学の専門医を養成する大学院、理学療法士の養成の短期大学などスポーツ医療関連の学校も同じ敷地に併設され、怪我を防ぐための科学的なトレーニングの実験場も兼ねている。まさに日本伝統の「根性主義」と「精神主義」を完全に排除した学校である。


 さらには寮完備のスポーツクリニックやリハビリセンターもあり、全国からリハビリのために故障を抱えるスポーツ選手が集まっているのだ。


 プロ野球の埼玉ライオンハーツ、Jリーグのさいたまレッズとも提携し、シーズンオフの選手の自主トレなどにも施設を提供している。


 しかもアメリカの名門スタンフォ一ド大学とも提携していて最新の情報が入ってくるという正直言って俺にとっては都合の良すぎる学校なのである。


 ただ誤算が二つあった。いきなり亜美に告げられたのだ。

「私、中学はさぁ彩栄さいえい学院に決まったんだぁ。」

え?前世では引退してマネージャーになったはずだが……。

「高等部は女子野球で日本で一番強いからね。いろんなところから声をかけてもらったんだけどレベルが高いところで挑戦したいんだ。これまでありがとうね。一応夏の大会まではリトルでいくけど、そこでお別れだね。」


 マヂかよー。余裕かまして告白とかちゃんとしてなかった。まあ今の時代、昭和と違って携帯があるんだからなんとかなるだろ、そう思っていたら亜美は「ケータイ禁止」の寮生活になってしまったのだ。


 そしてもう一つの誤算は胆沢も俺と同じ中学に合格していたのだ。彼は人間性が限りなくクズである以外は極めて優秀なのである。とはいえやつの「癇癪スキル」から身を守る日々がこれからも続くのか。


 さて、青学の運動部は全て高等部と合同である。また様々な筋肉を正しく鍛えることが必要となるため短大で学ぶ学生たちがトレーナーとしてトレーニングを見てくれる。だから部活特有の上下関係とかイジメのような問題はかなりリスクが低そうである。


 物凄く学費がかかりそうだが、設備費を県が負担したり、学校側も小中高の体育教員の研修費用などで稼いでいるので、決して安くはないがかなり抑えられている。


「沢村君、あなたのトレーナーのことなんだけど。」

運動部主任の女性教師が俺の顔をしげしげと眺めながら言う。

「バーナード先生が直々に見てくださるそうよ。」

クエスチョンマークが頭に載ったような表情をしている俺に不思議そうな顔をする。


「理事長先生ですよ。」

そう言って俺のデータが入った封筒と共に学長室へと向かわされた。ああそう言えば「校長」が「外国人ガイジン」だったような。


 俺が理事長室を訪ねると中にいたのは40歳前後くらいの白人男性だった。彼は唐突に尋ねる。

「健、私の事を覚えているかね?」

俺は慌てて記憶を辿る。うーん、小学校の時に読んでた親父が持ってたトレーニングの本を書いた人だったっけ?


「あ、はい。先生の書いた本を読んだことがあります。」

「私は本を書いたことはないよ。」

俺の答えがおかしかったのか彼は大笑いする。俺は思わずビクッとなった。


「私だよ。ケント・バーナードだ。君とはずっと異世界で一緒に旅をした仲じゃないか。まだ思い出してはくれないのかね。」

その言葉は英語でもなく日本語でもない俺がかつて転移して過ごした異世界の言葉だった。


 そう言えばあの「シュッとしたドワーフ」の深く刻まれたシワを伸ばしたらこんな感じにはなるだろう。


「ケント、まさかケントなの!?会いたかったよ!」

俺は立ち上がったケントと思い切りハグを交わす。事情をまったく知らない秘書さんが訝しそうに俺たちを見ていた。




 

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