第5話 イケメン保護法案を作りたい

「ユウナ、本当にそなたが行くのか?」


謁見の間で、お父様である国王陛下がそう尋ねる。

私は騎士の白い正装を纏い、出陣の挨拶に訪れていた。


「はい、お父様。必ず、鉱山に巣食う魔物を討伐してきますわ」


これから向かうのは、国境近くにあるダイヤモンド鉱山。とにかく宝石がわんさか採れるこの鉱山だが、魔女の仕掛けた罠によって魔物が無限に湧いてくる。


しかも、山に入ったら方向感覚を狂わせる魔術まで仕込んであるから、入ったら最後戻って来られなくなる可能性も。


誰よ、そんな何重にも罠を張ったのは!


って私よ!!

どうもすみませんでしたぁ!!


まさかもう一度同じ世界に転生してくるなんて、思いもしなかった。だからあんな強力な罠を……!


私は騎士団の副官として、部隊を率いて鉱山へ向かう。王女が行くの?って、行くのよ。自ら志願したんだもの。

魔女だった頃のしりぬぐいは、自分でやらなければ。今世で幸せになれるかもかかっているしね!


「本当に行くのか?」


「もちろんです」


「そうか。では、そなたの騎士たちのほかに、優秀な魔導士をつける。彼らと協力し、無事に戻ってくるように」


心配そうなお父様は、私の腕を信頼してはいるが行かせたくはないという本音が透けてみえる。ちなみに双子の弟妹はいるけれど、彼らは戦闘職ではないので自宅待機ならぬお城待機である。


「それでは、行ってまいります!」


安心させるように微笑んだ私は、お父様が選んだという魔導士たちに挨拶をした。


「第一王女のユウナリュウムです。どうぞよろしくお願いいたしますわ」


「…………こちらこそ」


目の前にいる魔導士は五人。この国で実力を保証された、宮廷魔導士たちだ。

このそっけない返事をした男は、人嫌いで魔術狂いという噂のディークバルド。現在二十五歳、稀代の天才魔導士として実力だけは折り紙付き。


七歳で宮廷魔導士になり、これまで数々の功績を残している。


近くで見ると、海の底のような蒼い髪に、黒い瞳。

抜けるように白い肌はちょっと病的だけれど、それでもすさまじく美しい男だった。


冷たそうな印象が、侍女や使用人にはクールでかっこいいと評判。はっきり言って、私のドストライクだわ。そっけないところもまたツボ。


何なの?

誰なの、こんな美青年を危険な場所へ送り込もうとしているのは。私のお父様だわ。


彼を危険に晒したくない。王家に伝わる護りの魔法をこっそりかけてしまった。


「これでよし」


「……」


ニコニコと微笑みを絶やさない私を、理解できないという風に見つめるディークバルド。しかめっ面まで絵になるなぁ。


あ、この仕事が終わったらイケメン保護法案でも作ろうかな!?

立派な慈善事業といえなくもない。


私は会話の続かないディークバルドを見て、用件だけを伝えた。


「陛下の依頼では断れないでしょう。けれど、危険だと思ったら引いてくださいね?」


一応忠告はしておく。


イケメンは保護すると決めているから!


私の言葉に、ディークバルドはふんと鼻で笑った。


「では、危なくなったら姫君を置いて逃げてもいいと?」


「おいっ!」


この発言に慌てたのは周囲の魔導士だ。はい、不敬罪ですよ~。私が最初の魔女のままだったら、怒りに任せて滅していたかも。


でも許します。生意気な子は嫌いじゃないわ。


私はにっこり笑って言った。


「構わないわよ。危なくなったら逃げてちょうだい」


「は?」


彼は驚いて目を瞬かせた。私が怒って拗ねるとでも思っていたのかしら。


「私は守られるほど弱くないもの」


まぁ、実際問題、強すぎてモテないくらいには強い。容姿チートなのにモテないくらい強い。だから、イケメンが助かるなら生け贄にでもなりましょう。


それに、罠を仕掛けた張本人ですから!これはおおっぴらに言えないけれど……。


イケメンあなたには、生きてもらいたいの。けがをすることは許しません」


きりっとした顔で言ってみた。通訳すると「そのきれいな顔に、傷はつくらないでね?」である。


「…………」


まっすぐに目を見て訴えれば、ディークバルドは眉間にしわを寄せつつも反抗しなかった。

満足した私は、後で合流しようと言って自分の部隊へ戻る。



さぁ、ちゃっちゃと鉱山を片付けて、過去の清算をするわよ!!

私は意気込んで出動した。




まさか、魔導士部隊に置いてけぼりをくらうとも思わずに。

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