第4話 おパンツ研究同盟!


 僕は心音の部屋に入るなり急いで・・・全てを話した。

 このまま心音と一緒に居たら僕が僕ではなくなってしまう。そんな気がしたからだ。


 キャミに短パンのラフな部屋着。心を許してるからこその無防備な格好。

 一年前なら当たり前だった。胸も小さかったし……でも今は違う。


 バスケ雑誌とスポーツドリンクが転がってたあの頃の無粋な部屋でもない。


 ファッション雑誌にコスメの数々。そしてこの匂い。部屋中に充満する綺麗なお姉さんの甘い匂いっ。


 幼馴染のはずなのに、どうしょうもなく綺麗なお姉さんなんだ。ドキドキが……止まらない。


 ──もう、帰りたくなっちゃったな。分不相応。僕はここに居ちゃいけない。




「なるほどねぇ〜。にわかに信じられないけど、コタが嘘つくとは思えないし……うんっ、わかった」


 そう言うと何故か「はい」と、手を出してきた。なに、この手? ワンっと吠えてお手でもすればいいのかな?


 ……いや、幼馴染と言えど今や綺麗なお姉さんだ。はっきり言って住む世界が違う。なんとなくわかっていた。


 これはたぶん、相談料ってことかな。色々と悲しくなってくる。


 僕は渋々財布から千円札を一枚取り出し、心音の手に乗せた。


「生活、少し厳しくて……これで勘弁して」


「えっ?! なにこのお金? そうじゃなくって、パンツ出して。話の流れ的にパンツしかないでしょ〜?」


 僕は目を見開いってしまった。


「なに驚いてるの? 海乃ちゃんがパンツを持って行っちゃうんでしょ? だったらパンツに何か秘密があるに決まってるじゃない」

「なるほど、そういう事か。突然変なこと言うからびっくりしちゃったよっ!」


「うん。じゃあ出して……パンツ」


 あ……れ? 待ってください。この綺麗なお姉さんはいったい何を?


「今、履いてるでしょ? それともノーパンなの?」


「っっ?!」


 僕はまた、目を見開いてしまった。

 心音が何を言い出したのか、理解してしまったからだ。


 大急ぎで10回、首を横に振った。


「えーっ、どうして? もしかして恥ずかしがってるの?」


 当たり前のこと過ぎて言葉が出ない……。

 僕は静かにゆっくりと頷いた。


「なにそれ……パンツなんてコタの部屋によく転がってたじゃん。なに色気付いてるの? コタらしくなぁーい」


 そういう問題じゃないの!!


「そうじゃない。だってもう────」


 ……僕は途中まで言い掛けてやめた。

 だってそれは、あの頃と変わらずに接してくれる心音を裏切ることになるから。


 それでもハイそれと脱げる訳もなく、トイレを借りることにした。


 そうして、心音にパンツを手渡した。


「ふーん。トランクスかぁ。別に昔となぁんにも代わり映えしないけどね。なんだろうなぁ〜」


 心音はパンツを広げると、首を傾げながら隅々まで調べた。


 そして、スンスンスン。スンスンスン。パンツと鼻の距離およそ2cm。


「く、くっさぁ……。すごい臭いかも。やばいよこれ。コタやばい!!」


 目の前の光景に絶句する。綺麗なお姉さんが僕のパンツを臭いと言った。

 もう、泣きそうだ。僕はいったい何をして何を言われてるんだ。


 ──はい。パンツを渡して臭いと言われました。


 どうして……こんなことに。

 一秒でも早く帰ろう。心が持たないよ……。



「ごめん……。もう、わかったから。返してよ」


 掠れる声を振り絞る。

 

「まって。ちゃんと嗅ぐから。コタが悩んでるんだもん。わたしに任せて!」


 そう言うと心音は僕のパンツを鼻に……くっつけた⁈


「わぁぁぁぁぁ! ダメだよ心音! それだけはダメだ」


 僕は急いで心音からパンツを取り上げた。


「ちょっと、なに?! まだ嗅いでる途中なんだけど?」

「それはこっちのセリフだよ。なにやってんだよ?!」


「うーん…………研究だよ? そう、これは研究!」

「け、研究?」

「そうだよ。コタのパンツの魅力を調べないと先には進めないでしょ?」


 


 ──僕は心音が何を言っているのかわからなかった。



 パンツの……魅力?

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