第18話 季節じゃないもの


「じゃあ、おばあちゃん帰るわね」玄関で、帰って来た僕たちと入れ替わるように、おばあちゃんは靴を履いた。

「え? おばあちゃん一緒に食べないの? 」

「ええ、だっておじいちゃんはお家でお留守番だから、可哀そうでしょ? 作った餃子を持って帰って食べるわ」

「まあ、俺たちは旅行をしてきているから、今からすぐにシャワーを浴びるよ。もしコロナウイルスに感染していてお母さんたちが発症したら大変だから」

コロナウイルスは年配の人の方が重症化しやすい。

「そう言うこと。じゃあね、鉄ちゃん、結ちゃん」

「本当にありがとうございました」

お母さんがものすごく深くお辞儀をしながら、おばあちゃんにそう言うと

「おばあちゃん!! 本当にありがとう!! 絶対学校に着て行く! 」

「フフフ、ズボンをはいてからよ、結ちゃんわかった? そして秋からね」

「うん!! 」

「喜んでくれてよかった、じゃあさよなら」

おばあちゃんも何だか楽しそうに帰っていった。


 よく見ると結は夏なのに毛糸のスカートをはいていた。腰に紐が付いていて、正面にリボン結びで止めてある。色は薄いベージュに、同じくらい薄い青やピンクの小さな花の幾何学模様のミニスカートだ。

「似合うかな? 」とお父さんも僕もそう言うと思っていた。最近の結のお気に入りの言葉だからだ。でも結が僕に向かって言ったのは意外な事だった。


「お兄ちゃん、あの赤い電車の名前「ブラームス君」だよ!! 」


「え? 」


 ニコニコでそう言った結を、お母さんはホッとした表情で見ていた。

お風呂から上がって話を聞くと、家では大変なことになっていたらしい。結は朝ゆっくりと起きてきて、僕たちが電車に乗りに行っているのを知ると


「結も行きたかったのに!!! 」


とずっと泣き通しだったそうだ。どうも昨日の記録会であんまり好成績ではなかったのが原因だったらしくて、お母さんは困り果て、おばあちゃんを呼んだのだ。

おばあちゃんは僕の鉄道の話もずっと楽しそうに聞いてくれるけれど、結はまた特別に可愛いのだ。

それはそうだろうと思う。おじいちゃん、おばあちゃん、ひいおじいちゃん、おばあちゃんにとっても、結は初めての女の子の孫、ひ孫なのだから。最近では結は、ひいおばあちゃんの所に行くと、

「このスカートが可愛い」と言って、二週間後にはそれに近いものが出来上がってくるのだ。ひいおばあちゃんは「女の子のものを作るのが楽しいわ」と言っている。おばあちゃんは最近始めた編み物で結に小さなバックとか、色々なものを作っている。ちょっと競争でもしているようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る