おしゃべり電車 僕は鉄道聴声官(ちょうせいかん)
@nakamichiko
第1話 僕の目覚まし時計
朝、布団の中で目を覚ますとき、僕は自分が
「世界で一番恵まれていて、幸せな小学生」
といつも思う。
これから中学生になって、高校生になっても、後半の三文字が違うだけで、きっと変わらないだろう。
ただ小学五年生の僕がこんな風に考えるのも、とても変なことかもしれないが、
「大人になって結婚をして、こんな最高の家に住めるのかな」
とちょっと心配な時もある。
そしてその日もいつも通り、全く変わらない朝だった。
僕には目覚まし時計はいらない。
窓の外からは、カタンカタンという音が近づいてくる。
「六時五十四分発の電車だ。今日も時間通り一分前にやって来ている。このエンジンの音は最新型だ。えーっと誰だろう」
そう考えながら、窓の方に行く。毎朝起きると同時にする僕のクイズだ。
「えーっと、ブルブル君かな、グリグリ君かな。そうだ! ぴあちゃんかもしれない! しばらく点検でいなかったからきっと! 」
僕は勢いよくカーテンを開け
「やっぱり! ぴあちゃんだ!! 」
低床車両と言って、ホームとの段差がほとんどない、車いすの人もすぐに乗れるタイプのものだ。カステラの紙箱のように、ちょっと縦長で、それほど長くない車体。でも、案外多くの人が乗ることができる。そしてあまり電車では見ないようなピンクに近い赤い色
だから、ぴんくとあかで「ぴあちゃん」と呼ぶことにした。電車に男の子も女の子もないだろうけれど、僕の中ではぴあちゃんは女の子だ。
僕の家の道の前には線路が通っていて、走って十秒くらいの所には駅がある。この路線は地方の鉄道で、路面電車と同じようなものだけれど、専用の軌道を走っている。二階の僕の部屋の窓は、もちろん駅の方に向いている。今日も寝間着のまま窓から手を振ると、電車の運転手さんも軽く手をあげてくれる。この家に来てからやっている日課だ。病気で寝ている昼間にもそうするから、お母さんにちょっと叱られたこともある。でもお母さんもそんなに怒りはしない。何故なら
「お父さんもお母さんも大の鉄道ファン」だから。
そして二人の間に生まれた僕の名前は「鉄」になった。
「名前だけ強そうだね」
「鉄道ファンのことを「鉄ちゃん」って呼ぶんでしょ? 」
「ぴったりの名前だね」
「直球の名前だ、リニアモーターカー並みだよ」
大人も子供も僕の名前にはいろんな意見を持っている。
本人の考えとすれば、この名前は、お父さんとお母さんが僕にくれた最高のプレゼントだ。
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