第24話

母の秘密


妹は傷ついた鳩を保護してきた。眼球が傷ついていた為に、眼球摘出手術をうけた隻眼のたくさん飛べない鳩は「はちょぽー」と私に名づけられ、私の部屋の本棚の上か階段で居ることが多かった。はちょぽーは育ち盛りの私の空腹の腹の音色が仲間から話し言葉と誤解したのだろう?私のお腹がなる度に、本棚の上から「ぽーぽー」と「ぽっぽっぽ」じゃない鳩の鳴き方を教えてくれた。いつまでも続くと思ったそんな日々はあっけなく幕を閉じる。学校から帰宅した私を迎えるはちょぽーは居なかった。「しらんまに居なくなってたよ」という母を長年疑って無かったのだが、ウーシャの時の様に、大空放鳥してしまったのかもしれないと今の私は疑っている。


そして新築分譲の空き家に雀の巣を見つけた事から私達は雀の雛を1羽盗んだ。雀の子はとても愛らしかった。これは法律違反なので真似しないでください。雀の子は「ちゅく」と私に名づけられた。ちゅくは文鳥と同じ様に飼い、順調に育ってゆく。今度こそ私は長い間一緒に時を刻めると思ったのだが、ある日、母は逃げたと帰宅した私に告げた。私は何時もの様に人間に責任があるのだからと泣かなかったが、かなり真剣に落ち込んだ。私が描くと死ぬのだと、自分の中でジンクスが出来上がってしまった。(だから忠犬らを飼っている今はまだらくがきすら封印している)そんな私はある日、学校から帰宅した時に、足下に雀の雛が踏み潰されてぺしゃんこなのを見てしまった。それが、遺体にさわる恐怖となって妹に庭土に埋けてもらった。こうして遺体に触れない私という人間に育った私も沢山の文鳥と単身赴任していたので、文鳥の死骸を抱く事ができ、姉が保護してきた燕や妹が一生のお願いで飼ってきた、今は亡き九官鳥の腹水で苦しみ暴れあっけなく逝った十五才の遺体を抱く事ができた。嬉しかった。初めて触れる親友の身体は死後硬直を迎えた固い文鳥達とは違う、ぶよぶよとした柔らかい手触りに、驚く余裕があるくらいだったから。兎に角、私は進んで飼い鳥の遺体に触れる事が出来ないという弱点を親友と共に乗り越える事ができた。

親友とは「題名のない音楽会」や「パプリカ」を共に鑑賞した。九官鳥のあーちゃんは嬉しそうにバイオリンの音を楽しんで居た。とてもとても嬉しくて堪らないと言わんばかりに饒舌になって親友の私の気をひこうとする姿なんか、良いものを聴かせてあげる事が出来て光栄だった。

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