思い出せない夏休み
灰猫
第1話 夏休み
アレは僕が小学2年の夏休みの出来事だ。
今思い出すと、うだるような暑さと言うのは、こんな状態の事を指すのだろう。僕はあまりの暑さに、額から流れ出た玉のような汗を服にこすり付けていた。
「あっちぃ~」
教室の中を見渡してみれば、ほとんどのクラスメイトが下敷きを取り出しては、そよ風でも生み出さんとばかりに扇いでいる。クーラーのない夏の教室は、窓を開け放っても暑いままで、窓際の席はカーテンを閉めてあげたくなるほどに日に焼かれていた。
「
「ん~?」
突然後ろから声を掛けられても驚く様な力は残っていない僕は、ゆっくりと呼び声のする方へと体を向けた。
「なにさ」
「明日から夏休みだな!」
子どもは風の子と言うのは冬の
「そうだな、やっと日向から逃げられる」
「何言ってんだよ康太、明日からいろいろ遊ぶんだろ!」
小学校の夏休み、子どもたちに与えられる自由時間は優に一ヶ月を超える。僕としては、暑い日差しを避けて家の中でクーラーでもって、家の中で涼んでいたい。
「えー、ヤダよ。外あついし」
「家ん中でも良いけど、やることねーだろ?」
こいつの頭の中には、宿題をやる考えは少しも無いのだなと僕は思った。
「ゲームでもやってろよ」
「俺の家には古いのしかねーんだよ!」
そういえばこいつの家に置いてあるゲームは、今売られている機種の二世代前のファミリーな奴だ。僕の爺ちゃんの家には、未だに現役なゲーム機のエンジンが眠っているが、僕らの持っているゲームソフトは少ない。最新機種のプレ2が無いでもないが、僕の持ち物では無く兄に優先使用権がある。
「あー、まぁー」
「ソフトも集まってやる様なのは、大体遊びつくしただろ?」
「うん」
「まぁ、でもプールも行かないといけないから、毎日って訳じゃないけどさぁ」
「プールは僕もだからなぁ。夏休みはいると昇級試験もあるし」
引っ越しで習い事だったサッカーを辞める事になった僕は、家にいても暇なので小さなスイミングスクールで水泳を習っていた。僕の他にもクラスメイトと3年生の男子が数名同じプールで泳ぎ方を教わっていた。
「康太は今年からだから、一年生とかと一緒だな」
「ふ~ん、そうなんだ。まだ受けた事と無いからなぁ」
「ちょっと泳ぐ位だから、別に難しくないよ」
小学1年生が受ける試験なのだから、そう難しく考える必要は無いと話を戻す。
「そんな事より、夏休みだよ!」
「家は爺ちゃんの家以外に出かける予定はないな」
爺ちゃんの家に遊びに行くのは、毎年の夏休みと年末年始の恒例行事だ。
「川行こうぜ、川!」
「川ァ?」
「水の傍なら暑くないって!」
「川ねぇ」
流されて下流で発見なんてことにならなきゃいいけど。
「行く途中に釣りの店で、適当な釣り竿買ってさ」
「釣りは良いな」
去年に一度学校の授業で川に釣りに行った事がある。あの時は種類も分からない魚を2匹釣りあげて、学校の水槽に入れて紹介したのだ。
久々に釣りをしてみたいという欲求は、僕のダレていた行動力に喝を入れて、流れ出る汗をものともせず熱を持ち始めた。
「はーい、みんなホームルームを始めるぞぉ!」
浅黒い肌をした担任の先生が大きな声で呼び掛ける。
「暑いのは仕方ないけど、終業式が終わったら夏休みだから今日の半日は頑張るんだぞ!」
職員室は冷房完備だからか、先生の額に汗が浮かんでいる所を見たことが無い。単純な話、暑さに強い体質なだけかも知れないが。
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