おやすみなさいいいゆめを

まずは準備をしましょう。仰向けに寝転がれる場所がいいですね。あなたはいつもどこで眠るのでしょう?

布団の上?ベッドの上?それとも机の上に突っ伏すのかな?そうだとしても今回は仰向けに寝転がってくださいね。

寝転がったら次はぐーっ伸びをしてみましょう。そこまでですか?いいえ、もっと伸びてみましょう。

一日の疲れが貯まって強張った体に血液が流れ込む。体が少し暖かくなる。気持ちいい。

もう一回やってみましょう。はい、ぐーっ。今度はもっと伸びる。

手首、肘、肩、首、腰、膝、足首、体の関節に血液の流れを感じる。体がもっと暖かくなる。気持ちいい。

さらに一回やってみましょう。はい、ぐーっ。今度はさらにもっと伸びる。

皮膚を介して血液の流れる音が聞こえて来る。心臓の鼓動を身近に感じる。体がさらに暖かくなる。とても気持ちいい。

暖かいことは、気持ちいい。

じゃあ次は自分の左胸に左手を置いてみましょう。ドクン、ドクン、ドクン。心臓の鼓動をもっと身近に感じる。ドクン、ドクン、ドクン。とても落ち着く。ドクン、ドクン、ドクン。

そのまま深呼吸をしてみましょう。心臓の音に耳を澄ませましょう。

まず吸って。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

吐いて。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

心臓の音に合わせた呼吸。とても落ち着く。体が少し重くなる。

吸って。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

吐いて。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

鼓動と呼吸の調和が取れて来る。さらに落ち着く。体がさらに重くなる。

吸って。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

吐いて。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

鼓動と呼吸の波が重なった。体がとても重くなる。あなたはもう指一つ動かしたくなくなる。

そして、この波が重なったから、あなたはもう指示されなくても、あなたは深呼吸を続ける。

このまま少しお話をしましょうか。起き上がる必要はありませんよ、私が好きで語りかけるだけですから。相槌やうなずくことも必要ありません。ただ、聞いていてくれればいいのです。

そうですね、ではあなたが昔なりたかったものを想像してください。目を閉じて思い出してください。

それは、かっこのいいスポーツ選手でしょうか?それとも、なんでも治せるお医者さんですか?それとも、なんでも作れる大工さんでしょうか?

私の答えが違っていても、あなたは肯定も否定もする必要はありません。聞き流して、昔を思い出してくれるだけでいいのですから。

あなたの夢は叶いましたか?それとも叶わなかったのでしょうか?それとも、叶えようと努力されている最中ですか?

そのどれかであっても、あるいはどれでもなかったとしても、あなたは聞いて、過去を振り返ってくれるだけでいいのです。

さらに深く思い起こしましょう。そうです、あなたがもっと幼いとき、小学校にも通う前、見るものすべてが新しく、そして不思議に見えたあの時代、5歳の時です。あの時に好きだった遊びを思い出しましょう。

公園の砂場での泥遊びでしょうか?おままごとですか?それともかけっこでしょうか?それがたとえ十数年前でも、今ははっきり思い出すことができるようになります。だって、私が手助けするんですもの、当たり前のことですよね。

あの時好きだった遊びを、今もしていますか?きっともうやめてしまって久しいでしょう。あの時のドキドキを、多幸感を、好奇心を忘れてしまうような荒波に必死に食らいついているのですから、仕方のないことかも知れません。好きだった理由なんてもう覚えていないかもしれませんね。じゃあ、あなたがその遊びを好きだった理由、私が教えてあげましょう。それは、気持ちがよかったからです。

幼い頃、幼ければ幼いほど、欲望に対して忠実になります。お腹が空いたらお菓子をねだって、眠くなったら寝て、遊びたくなったら遊ぶ、そういう生活を送っていました。それが叶わなければ泣いて駄々をこねたりしたかもしれませんね。今想像するととても可愛らしいものですね。それでもその時は、食べることに、寝ることに、遊ぶことに必死でした。どうしてそこまで必死だったのでしょうか?それは、食べる欲求を満たすこと、寝る欲求を満たすこと、遊ぶ欲求を満たすことがどれも気持ちのいいものだったからです。

なぜその欲求を満たすことが気持ちのいいことだったのでしょうか。それを探るためにもっと深く思い起こしましょう。まだ深呼吸を続けていますか?そうですよね。深呼吸が気持ちいい。やめる理由なんて、ないですよね。

じゃあ、深呼吸を数えましょう。

五。

四。

三。

二。

一。

零。

あなたが生まれてすぐ、感情なんて単純な快・不快だけの時代です。お腹が空けば泣き、眠たくなればただ泣いていた、あの時代です。あなたのお母さんが、あなたのお父さんが、あなたの欲求を満たすために振り回されていたことでしょう。でも仕方のないことですよね、あなたは何もできないのですから。

いるだけで、ただいるだけで、褒められる。

食事ができれば褒められる。ぐずらず眠れば褒められる。立つことを覚えれば褒められる。

褒められると嬉しい。褒められると気持ちがいい。当たり前のことですよね。

嬉しいと頬が程よく紅潮します。体を血液が程よく巡ります。暖かい。暖かいことは気持ちいい。あなたは実際、昔からそのことを知っていたのです。

そうです。食べる欲求が満たされれば、暖かい。暖かいことは気持ちいい。

そうです。寝る欲求が満たされれば、暖かい。暖かいことは気持ちいい。

そうです。遊ぶ欲求が満たされれば、暖かい。暖かいことは気持ちいい。

暖かいことが気持ちのいいことだとあなたは生まれたときから、いいえ、生まれる前から知っていたのです。

あなたはお母さんのお腹の中で、お母さんの暖かい体温を感じ、お母さんの心臓の音を聞き、酸素をたくさんもらって生きていました。そうです。この暖かさをあなたは生まれる前から学習していたのです。暖かいことは気持ちいい。そう思いながら外で初めて息を吸うまで生きてきたのです。

これ以上昔に戻ることはできませんね。仕方がないので戻りましょうか。

まだ深呼吸を続けていますか?そうですよね。深呼吸は暖かい。暖かいことは気持ちいい。

それでは深呼吸を数えます。

一。

二。

三。

四。

五。

六。

七。

八。

九。

十。

あなたの年齢まで戻ってきました。

今はどうでしょうか。暖かいですか?気持ちがいいですか?

そうですよね。あなたは今、全身が暖かく、心臓の鼓動を聞き、たくさん酸素を吸っている。

まるでお母さんのお腹の中に帰ったみたいですね。気持ちがよくて当たり前です。

しかしどうでしょうか。学校で、仕事場で、近所付き合いで、あなたは毎日くたくたではありませんか?

食べる欲求を満たすことを忘れ、寝る欲求を満たすことを忘れ、遊ぶ欲求を満たすことを忘れていませんか?

それらが気持ちのいいことだと、忘れていませんか?

日に一度くらい、自分を褒めてもいいのではありませんか?

褒められることが気持ちのいいことだと、忘れていませんか?

ではこれから、明日から思い起こしていきましょう。このことに気づけたのですからあなたは偉いです。私の言葉に口を挟まずに聞けたあなたは偉いです。

明日は休みの日です。よかったですね。

それではこのまま、おやすみなさい。

いい夢が見れるはずですよ。私が手助けするのですから当たり前です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る