仕事だからな、世界を救うことも
黒煙草
第0話
ビルの森が立ち並ぶ都会────
地面から数センチ浮いた車や、歩くことを忘れた異形の者、人の形をした超能力者が街を蔓延るこの街で
街中にあるベンチでひとり座るトカゲのような尻尾を生やした、着物を着流す片角男は、通り過ぎようとする赤髪の男を睨む
「血鬼、戻ってきておいて挨拶もなしとはどういう了見か」
片角男は咥えた煙管をのんびり吸い、片手に持つ電子媒体の新聞へ目を戻す
「必要ねぇだろ…今回はただの
「また勝手なことを言いおって……我が殿が聞いたら何を思うか、見物だな」
「旦那を出すんじゃねぇよボケ」
「口が悪いのは相変わらずだが、勢いが足りんな?
「ねぇな、有り得ねぇ」
「まぁそうだな、奴なら1人でも出来よう…あの程度の世界なら」
「今の、報告しとけ。俺ァ次がある」
「たしかに貴様の仕事はまだあるが、適度に休め」
「労んなら旦那の方にしとけよ、あいつ休んでるとこ見た事ねぇよ」
「たしかに言えてるが、我が言える立場ではない」
「……俺も早く強くならねぇとな」
「急がば回れ、我も今その最中だ」
「新聞読んでタバコ吸うことが、か?」
「好き言うがいい、情報収集も強くなるためのひとつだ。覚えておけ」
「あっそ……鍵屋ァーッ!!」
赤髪の男はそう叫ぶと、目の前に黒い歪みが出現する
「じゃあ行ってくる」
「ご武運を」
「黙れトカゲ野郎、邪神に呑まれんなよ?」
赤髪の男はそう言い残し、歪みを通り抜ける
歪みは無くなり、その場に残ったトカゲの男は新聞を読み続けた
都会は今なお、車の音と日常を奏でていた
──────────────────
俺の名前は”勝太 《かつた》
というかこの間誕生日を迎えた
昔の腐れ縁である友人から『魔法使いおめでとう』のLINEメッセージが来た時は『ありがとう氏ね』と返信した
親からは涙を流すスタンプだけ来たが、ウザかったので笑うスタンプを送ると怒るスタンプだけ返ってきた
女性のピークは30代からと、どこかの雑誌で読んだ気がするが、家にペットを買うと一生嫁げないとかなんとか
余計なお世話である。猫の風太郎は私の家族だと言うのに
まぁそれは置いておいて、私の仕事場での話
勤め先はコンビニエンスストアという24時間営業の物売り屋
私のシフトは全夜勤で、昼に異動は1度もなかった
田舎ということもあり、入ってくるバイトは成人未満の若者たちだ
そして1、2年経つと辞めていく
それもそうだ、都会に憧れる気持ちは分かる
現に出ていった若者は、都会に挫折して帰ってくる
じゃあ出るなよ、とは言えない
可愛い子には旅させろ、だと思う
私の親がそうだったからそうなのだろう
話を戻すとして、今回入ってきたバイトの子
男の子で、珍しい赤色の髪をした少年だ
少年と言っても入った当初は18くらいだが、今は23歳、もう青年か
そう、5年もこのコンビニで働いているのだ
私は8年目になるが、それでも若いのに都会に出ず、ここで働くことに疑念を持った
まさか私目当てじゃないだろうかと、罠を貼る意味で青年が20歳をすぎた時に飲みに行かないかと誘ったが、何もしてこなかった
というより、私より酒が強いのはどういうことなのだろうか?
赤髪のバイトの子、仕事ぶりはそこそこで、細かな注意点は見られるものの、店長や私からは高評価していた
つまり、副店長としての肩書きを持てるのだが、本人はそれを断っている
仕事場での理由は『めんどうだから』
酒の場での本音も『だるい』
果たしてこの子は何者なのだろうか、と思考を巡らしている時
事件が起きた
──────────────────
状況は夜深い時刻、赤髪の青年がチンピラ5人に囲まれているところから始まる
こんなド田舎でイキるチンピラは赤髪の青年にイチャモンを付け、青年はそれを黙って聞いていた
黙って聞いていた、というより心ここに在らず、と言った感じで遠くを見ていた
私はその状況を見て、割り込む
「申し訳ございませんお客さま、何か問題がおきましたか?迷惑をかけました、本当にごめんなさい」
言うことだけ言って下がろうとしたが、そう問屋は下ろさない
「うるせぇ!この男が呼び止めたから何かと思って待ってたんだよ!何も言ってこねぇから文句言ってんだ!!」
それは初めてのことなので私は衝撃を受けた
赤髪の青年が人を呼び止めるなんて滅多になかったし、呼び止めるにしても普通女性のはずだ、なぜ男なんだ?
しかも複数人
田舎だとしても、飢えているにしても、男たちで乱交とは私の腐女子魂が荒ぶるだけだ
理由を聞かなければ…
「ね、ねぇ”鬼ヶ島”くん?なんでこの人たち呼び止めたの?」
「あ、”月光花”さん…必要だったから、今から」
ますます意味がわからない、もしかして近づかなければ良かったのでは?と思った瞬間
────それは奇跡か
────それは運命か
────それは必然か
コンビニの光だけが照らす宵闇の地面から、別の光が私と5人のチンピラ、そして赤髪の青年を包み込み────
「おーい月光花、少し問題が…あ、あれ?居ない?!どこに────」
「店長さんですか?」
「あ、あぁ?き、君は一体?というより店内にいた?気づかなかったけど…」
「自分をここで働かせてください、よろしくお願いします」
宵闇を照らすコンビニエンスストアは、静かに佇んでいた
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