第114話 鈴木 桃奈
また一人……俺が自分の手でぶん殴ってやらなきゃ気が済まない奴が増えたのか。
回復術士のスズキこと……
確かに、セトロベイーナ王国の人間から全く評価されず、無能……役立たず……ブス……と陰口を叩かれまくっているのを見たり聞いたりした時は、可哀想だな……と少し同情はした。
その同情も、
二年間共にいた仲間の間違った判断を止めるどころか、自分はさっさと国外逃亡だし。
あの二人が魔王軍に寝返ると知ってか知らないかは分からないが。
知ってて国外逃亡をしていたとしたら、ただのクズだ。
多くの人間が、死ぬかもしれないと分かっていたはずなんだから。
それでいて、役に立たない人間だったとか陰口を叩かれて当然。
自業自得だな。
知らなかったとしたら、それは正真正銘の本物の無能。
すなわち役立たずだから陰口を叩かれて当然。
つまり自業自得だな。
あと、よりにもよってアルラギア帝国……セトロベイーナ王国の人間が多く殺された
留守番要員、という役目を与えられた新加入先のアルラギア帝国内でも、信用されていないのはもはや呆れるしかないが。
しかもこの無能な役立たずが信用されていないため、
引き抜いた人間に、セトロベイーナ王国の留守番役を頼もうと思ったのに、……ああ、どっかの無能な役立たずのせいでさぁ……。
国外逃亡してまでも、セトロベイーナ王国に迷惑を掛けるのか?
鈴木桃奈、お前は。
陰口を叩かれて当然の無能だよ。
やっぱり自業自得だな。
「……ジン殿? 一体どうしたんだ? 新しい留守番要員の女の名を出した途端に……なあ?」
「そ、そうですね……鈴木さんと何かあったの……?」
「……別に」
「別に……って、どう見ても怒ってるよね? お姉ちゃん?」
「う……うん。
誤魔化そうとしても無理だったか。
ははっ、その通りだよ。
今の俺は殺意に満ち溢れているほどキレてる。
「……決めたぞ。俺は決めた。
「……どうせ反対してもやるんでしょ? いいよ、私は仁についていくから」
「ああ、ありがとう」
「ちょっ!? い、一体何する気!? お姉ちゃんも何も聞かないで、OKしないでよ! 絶対これ、とんでもないことやっちゃう時の仁だよ!」
持つべきものは女友達……いや、麗翠だな。
俺を理解してくれているから、話が早い。
そんな俺達二人のやり取りを見て、
一方、会話に入っていない
これから、面白いことが起こるとでも思って期待しているのかは知らないが、かなり腹立つ。
テメーも、強制的に協力させっからな?
マジで覚悟しとけよ?
といった意味を込めた視線を国分に送る。
すると、伝わったかどうかは分からないが謎のOKサインを出され、更に腹が立ってイラつく。
ふー……落ち着け、落ち着くんだ。
やりたいことのために……。
まずは、交渉しないと。
「オリヴェイラ様、協力要請の内容を変更します。その新しい留守番要員、回復術士のスズキことスズキ・モモナの身柄を引き渡して貰いたい。元々そいつは、セトロベイーナ王国の勇者パーティーだった人間だ」
「ううむ……帝国内でも、引き取って貰えるのならありがたいと言われるぐらいの評判だと聞いているが……」
「忌避の力を持つ留守番要員が必要だから、手放せない……ってことですよね?」
「ああ……もし他に忌避の力を持つ人間がいれば、あの女は既に勇者キシダの手で斬首刑になっていただろうな」
腐っても女神の加護持ちだから手放せない。
オリヴェイラ様の言い分はもっともだったが、それにしても評判悪過ぎだろ。
俺としては交渉がやりやすくなるから、ラッキーと思う反面、わざわざこんな無能を引き取るために、同じ女神の加護持ちを差し出すのが勿体なく感じてきた。
……まあ
果たして、寺原をパシリ扱いしていた連中がいる所へ帰してやろうとするのは、助けたと言って良いのかは疑問だが。
「もし、アルラギア帝国が回復術士のスズキの身柄を引き渡してくれるのなら、セトロベイーナ王国で捕虜となっている寺原……テラハラ・サツキをアルラギア帝国へお返しするように、セトロベイーナの女王と話を付けてきますよ」
「……あの女を引き渡すことで、テラハラ殿が戻って来てくれるのなら、こちらにとっては良い話だが……一体何を企んでいる?」
アルラギア帝国が有利過ぎる取り引きを持ち掛けるので、オリヴェイラ様は俺を怪しんでいる。
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