第87話 天ケ浦 華

 「……幼稚園から高校までずっと一緒で、勉強も運動も家事も出来て、顔も性格もスタイルも良い。まさに男の子が理想としていそうな完璧幼馴染だもんね。天ケ浦あまがうらさんは。そんな幼馴染ならじんも自慢げに褒めたくなっちゃうよね」

 「いや自慢げになんか、褒めてないし……。というか、俺達がいたあのクラスで神堂以上に活躍していたのなんて、天ケ浦くらいだろっていう事実を言っただけだって」


 それに、元クラスメイトの約半分に再会したが、元の世界でダメだった奴は、この世界でもダメだったし、元の世界でバカな奴はこの世界でもバカだったし、元の世界でクズだった奴はこの世界でもクズだった。


 だから、元の世界で神堂以上に活躍していた天ケ浦はこの世界でも活躍してそうだよね……っていう話をしているだけなのに、何で麗翠はこんなにも不機嫌そうにしているんだよ。

 元の世界でも、天ケ浦と麗翠はあんまり仲良く無さそうだったから、麗翠の前で天ケ浦の話をしたり、天ケ浦を褒めているかのように聞こえてしまう言動をしてしまっている俺が悪いのかもしれないが。


 ……でも、幼稚園から高校までの長い間天ケ浦とは腐れ縁のような感じで、ずっと一緒だったからこそ不思議なんだよな。

 何故、麗翠は天ケ浦と仲が悪いのか。

 

 正直、天ケ浦を嫌っている人なんか、麗翠以外で見たことなかったよ。

 俺の知らない所で何かあったのか?

 でも、天ケ浦は人に対して嫌がらせするような人間じゃないしな……。


 ……? ん? ちょっと待て?


 「……あれ? 麗翠に俺と天ケ浦が幼馴染なんて話したことあったか?」


 俺は天ケ浦と幼馴染だということを高校時代は隠していたはずだ。

 それなら、高校の時に俺と初めて会ったはずの麗翠が知っているはずがない。


 俺と天ケ浦と一応幼馴染だったケントが喋ったのか?

 ……いや、高校の時にクラスメイトの女子とケントが話している姿なんて見たことないしな。


 それに、小学校の時も中学校の時も俺達二人とはずっとクラスが別だったし。

 すれ違ったりしたら、挨拶程度はしていたんだろうけど、そんなケントがわざわざ天ケ浦と幼馴染アピールするか?


 それか、俺らと中学が一緒だった岸田きしだ辺りが喋りやがったのか?

 ……いや、麗翠も俺と一緒で岸田のことを嫌っているし、そもそも岸田が俺と天ケ浦のことについて話すなんてことがあるはずない。

 岸田は中学時代に天ケ浦に公開告白をしてフラレているしな。


 ……ああその後、天ケ浦にフラレて、取り巻きどもに慰められている岸田を大爆笑してから、俺と岸田の仲が本格的に仲悪くなったんだっけ。


 (「あははははは!!!!! バカじゃね? イジメなんかやってる頭の悪いDQNが付き合って貰えるわけねーだろ! いやー公開告白とか、マジで笑わせて貰ったわ!」)

 (「上野ォ……テメェ! ぶっ殺してやる!」)

 (「ああ? 雑魚狩りしてイキがってる三下が俺に勝てると思ってんの?」)


 ……いくら岸田だからって、あんな大勢の前で盛大にフラレて傷心の所を大爆笑したらそりゃキレられるわ。

 しかもその後、ケンカになってボコボコにするとか、仲悪くなって当然だな。


 まあ、岸田とはこの一件が無くても、仲良くなることなんて無かっただろうけど。


 ……ってか、本当に誰だよ。

 色々と面倒臭いから天ケ浦と幼馴染だったってことは周りに隠していたのに。

 誰が麗翠に余計なことを言いやがったんだ……。


 「……天ケ浦さんだよ。私に、仁と天ケ浦さんが幼馴染だって教えてきたのは」


 麗翠は不機嫌なまま、誰が麗翠にそのことを教えたのか、俺に話す。


 「……え? マジで?」

 「……本当だよ。仁が朝、パン派だってことも豆類が嫌いだってことも、……仁の両親がどっちも出世コースに乗っちゃったから、朝と昼のご飯を作ってくれる人が家にいないってことも、それ以外にも仁の好みや色々……全部、天ケ浦さんに教えて貰ったの」

 「…………」


 ……天ケ浦が麗翠に俺のことを教えていたなんて初耳だな。

 ……一体何のために、そんなことを。

 俺のために……か?


 いや、そんなわけねえか。

 俺は天ケ浦をフったんだ。


 今も覚えている。

 中学校の卒業式の後、屋上で天ケ浦に告白された時のことを。

 しかもフっただけじゃなく、自分のことしか考えていないような発言をした。


 (「高校では、野球に集中したいから、無理だわ。……てか、お前と幼馴染だって知られるとさ、色んな男にお前を紹介しろって言われるの面倒なんだよ。適当に他の男と付き合うか、俺と幼馴染だってことを誰にも喋らないでくれ」)


 …………。

 今、思い出すと中学の時の俺って最低だな。

 この発言の後に、あの天ケ浦が思いっ切り泣いたのを見て、流石にヤバいと思って謝ったけど、結局天ケ浦と以前のような関係に戻るのは無理だった。


 「……いやーマジか……」


 頭がごちゃごちゃになって、整理がつかない。

 他の人間が見たら、そんなどうでもいいことでショックを受けているのか? と笑われるかもしれない。

 でも、俺には中々衝撃だった。


 「話したくなったら、話してね。天ケ浦さんと何があったのか。ずっと気になってたの」

 「……ああ、分かった」


 ……一度天ケ浦と会って話さなきゃいけない理由が出来たな。

 そのためにも、まずは明日だ。

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