第86話 思い出せない事実
「え……?
あれ……おかしいな。
神堂から聞いた話だと、天ケ浦がイーリスに召喚された高校の一クラス二十八人(巻き込まれて召喚された俺も含めれば二十九人)の中で一番良い評価を受けた。
その証拠に天ケ浦は
「え、そうなの? ……あー……うーん……確か、そうだったかな?
「……違うなら、天ケ浦じゃないと思うって言っていいんだぞ? 俺に話を合わせなくていい」
……これ、マジで神堂は勘違いしてんじゃねえのか?
麗翠が全然ピンと来ていなそうだし、何よりええ……? 私が覚えてないだけかも……あ、そうだったかも……って明らかに俺に話を合わせている感じじゃねえかよ。
「……ごめん、正直覚えていないというか、あの日……
「……そうか」
あの日。
あの日とは、俺達がこの世界に召喚された日の話だろう。
……優しいな、麗翠は。
俺がどこにもいなかったから、ずっと探していただなんて。
まあでも実は……ほんの一瞬だけ、あくまでもほんの一瞬だが、クラスの連中と俺は一緒に、始まりの場所とイーリスが呼んでいた不気味な部屋にいた。
だが、イーリスは……即座に異物……つまり、本来この世界に召喚するはずのなかった存在である俺に気付き、すぐに俺を別の場所へと、魔法かなんかで転移させたのだ。
……これより先の話は、いくら麗翠でも話せない。
というか、話そうにも、完全にしっかりと覚えているわけではないため、適当なことを教えるのも悪い。
俺が覚えているのは、俺とイーリスはどこかの教会で二人きりでいたこと。
その教会で、お詫びとして
そして、もし女神の剣を持つ勇者や女神の加護を持つ勇者パーティーとなった君のクラスメイトの中に、魔王の討伐をして、この世界を救うという使命に相応しくない奴がいると感じたら、その剣で容赦なく、女神の剣や女神の加護を奪え、その代わり、奪った以上は君が世界を救えって言われたんだよな。
だが、無闇に私に対しての腹いせのようにクラスメイトを殺すなとも、忠告されたが。
一応、女神が選んだ人間……この世界を救うという使命を与えられた人間だということを覚えておけと。
……そして、優しい女神からのヒントだと称して、ケント達やフィスフェレムのことなど色々と教えられた後、イーリスが明かしたとんでもない事実に俺がブチギレて、イーリスを殺した。
そして、イーリスを殺した後、何故か強烈な眠気に襲われて眠ってしまい、目が覚めたらボルチオール王国のファウンテンにいて、ケント達と再会したわけだ。
まあ……ここから二年間はこの世界を生きるために必要な最低限の女神の加護を与えられていない状態で、イーリスを殺してしまったため、筋トレとモンスター狩りに勤しみながら、ケント達のご機嫌を取りつつ生きていくという地獄だったが。
……まあまあ当時のことを覚えてるじゃないか! と突っ込みたくなるかもしれない。
だが、一番重要である俺がイーリスを殺す原因となったとんでもない事実。
このとんでもない事実というのがいくら思い出そうとしても思い出せないのだ。
思い出そうとすると。
余計なことを思い出すな。
という、イーリスの声がどこからか聞こえてきて、とてもウザいし無性に腹が立つので、思い出すことを諦めた。
「……うーん、でも……神堂、そして一応、
本当は当時のことを色々と思い出していたわけだが、麗翠にはまだ教えられないので、あたかも女神の剣を持つ勇者の中で、最強なのは誰かを考えていたフリをし、やっぱり最強は天ケ浦じゃないか? とわざとらしく麗翠に聞く。
「……ふーん。天ケ浦さんのことやたらと褒めるね」
「……? どうした麗翠?」
何故か麗翠は不機嫌そうにしている。
別に褒めてないだろ……ナンバーワンだったら、まあ……頭も良くて運動も出来て、顔も良くて名家の生まれの天ケ浦なんじゃないの? って話をしているだけなのに。
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