第84話 ゴミ箱と呼ばれる街
「……臭いな、やっぱ西側は。それに朝も夜も関係なく、大量の動く死体かよ」
「ネグレリア・ワームも大量だよ……」
アルレイユ公国の西側に来た俺と
ジェノニアレベルの地獄だ。
……それに加えて。
「うげっ……ゴキブリとかネズミとかだけじゃねえ、不潔な所に集まる害虫や害獣のオンパレードだ……」
「ここら辺は奴隷扱いを受けていた人達が強制的に住まわされていた街だから、もともと汚かったんだよね。……ネグレリアはそこを気に入ったみたいだけど」
「俺がアルレイユ家の屋敷に向かうまでに通ってきた街はまだマシだったのかよ……」
アルレイユ公国の西側……と一括りにしていたが、それは間違いだったみたいだ。
俺はこの国の勇者パーティーに会うのが最優先だった。
なので、セトロベイーナ王国から最短ルートでアルレイユ公国の東側へ向かっていたため、ネグレリアの城があるこの街には来たことが無かった。
麗翠がパーティーメンバーと一緒にネグレリアの城の四階までは行ったことがあるようなので、この街に連れて来てもらったわけだが……。
いや……これは酷いぞ。
ジェノニアの時とは違って、本当に生きている人間が皆無だし、ジェノニアはもともとはキレイな街だったので、あまり害虫や害獣がわんさかいるってわけじゃなかったし、なんなら結構それなりに人の住む家が残っていたりした。
だが、この街は人の住む家がそもそも皆無。
ゴミもそこら辺に落ちているため汚い。
……というか、いくら治安の悪い街で、奴隷扱いを受けていた人達が強制的に住まわされていた街だとはいえ、ゴミ多過ぎだろ。
一瞬、ようやく人が住んでいたであろう家を見つけたか? と思ったらただのゴミの山だし、おお……住宅街か? と思ったら、ゴミの山が沢山あるだけだったし。
「酷い街だなあ……」
結構俺もこっちの世界で地獄の景色ってやつを見てきたと思っていたけど、上には上があるんだな……。
ドン引きした俺は、麗翠に聞こえるくらいの声で、思わず独り言を言ってしまう。
「街……ね。……街って呼んで良いのかな? ここを」
「……? どういうことだ?」
俺の独り言を聞いていた麗翠が悲しそうに話を始める。
「この街ね……名前が無いの。代わりに東側の人間や騎士達からゴミ箱って呼ばれているんだ」
「ゴミ……箱だと?」
「うん……東側で出たゴミを処理するのが面倒だからって、東側の人間や騎士達が、奴隷扱いを受けている人達が住むこの街に、わざわざ運んできて捨てていくの。どうせ、奴隷というゴミが住んでいる街なんだから、俺達がゴミをいくらここに捨てようが問題ないだろって」
「…………」
街の規模の割に、ゴミの量が多過ぎるのは、そういうわけだったのか。
……ああ、マジで。
救いようのねえ連中だ。
アルレイユ公国の人間は。
「なるほどな……他の街と比べても動く死体の数が段違いに多いのも、それが理由か。この街に住む人達をそんな風に呼んでいた連中のことだ、助けるわけがないもんな」
「……私達がこの街の人達を助けようとしたら、余計なことはするなって言ってきたから、むしろ殺したかったんじゃないかな? 虐殺だと、他の国から批判を受けるから、魔王軍幹部であるネグレリアによってこの街の人間は殺されたことにしたいって、この街の領主が言ってたし」
ボルチオール王国の連中がまだマシに思えてくるぜ。
いや、絶対にマシだな。
……まあ、いい。
ここまで人間のゴミどもが沢山いる国だと助ける必要が無いので、手間が省けて俺は助かるよ。
……一応、麗翠にも聞くか、遠回しに。
麗翠自身があんな扱いを受けていたわけだから、聞くまでもないと思うけど。
「ネグレリア倒したら、すぐにアルレイユ公国とはおさらばで良いよな? こんな国、どっかの国にでも滅ぼされるか、いっそロールクワイフ共和国みたいにアルラギア帝国の従属国にでもなりゃいい」
「私もそう思うよ。
……愚問だったか。
流石にいくら麗翠が、人に優しい人間だとはいえ、本当のゴミどもを助けたいと思うわけがねえよな。
「決まりだな。それじゃネグレリア討伐のためにまずは……あの動く死体達を動けなくしてやるか。俺達に気付いて近付いてきたし。麗翠、俺に
「分かった。とりあえず……最初は倍で良いかな? ダブル」
麗翠が俺に女神の緑の強化魔法をかける。
二倍だからダブルか……そのまま意味の魔法だな。
「強化魔法をかけたよ仁、お願い」
「サンキュー麗翠。……
複数起動で女神の藍と女神の紫を同時に起動させる。
動く死体には、女神の藍のディサイドを、ネグレリア・ワームには、効くかどうか分からないが、女神の紫のデッドリーポイズンを喰らわせる。
「ディサイド! デッドリーポイズン!」
動く死体とネグレリア・ワームの集団に、
すると……大量にいた動く死体達の集団はバタバタと倒れていき、そして気持ち悪く動いていたネグレリア・ワームの集団も動かなくなった。
「凄いよ! 仁!
「……ぐえっ」
驚きながら、麗翠が抱きついてくる。
く、苦しい……。
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