第83話 不安要素
「
「ん……んー……うえっ? 明るい……?」
「もう朝だよ? ふふっ……よっぽど疲れてたんだね。私はあの後夜に一回起きたけど、仁は起きる気配なかったから。あ、買った物の整理は私が全部やっておいたから心配しないで」
「マジかぁ……悪い……」
やってしまった。
昨日、二人の靴を玄関に置いた後、少しだけ寝るつもりで、
まあ……最近は安眠するのが難しい環境で寝るのが続いていたからな……馬車の中とか。
この家のソファーが高級ホテルのベッドと感じてしまうぐらいには、体が疲れていたのかもな。
しっかし、このソファー……あーやわらけー。
「ほらほら起きて、もう朝ご飯出来てるから顔洗って」
麗翠はそう言いながら、水の入った洗面器とタオルを持ってくる。
相変わらず準備がいい。
俺は起き上がって眠い目をこすりながら、水で顔を洗い、タオルで顔を拭く。
「はい、タオルと洗面器はちょうだい。片付けてくるから。仁はもうご飯食べてて、あ……もし朝ご飯のメニューが気に入らなかったら言ってね? 別メニュー作り直すから」
「流石に俺もそこまでワガママじゃねーよ。ありがたく食べさせてもらうさ」
「そう言ってくれると作った甲斐があるよ」
麗翠は嬉しそうに俺からタオルと洗面器を受け取ると、この二つを片付けにリビングを出た。
……早速俺、麗翠のお世話になりっぱなしじゃねえかよ。
参ったな。
悪いと思いつつ、俺はテーブルに座る。
おお……ちゃんと覚えていたのか。
俺が朝、パン派であることと豆類が嫌いだということを。
テーブルの上には、パンと様々な種類のジャム、そして干し肉と豆が乗ったサラダ、魚のソテー、アイスティーが用意されていた。
ちなみに俺の方のサラダには豆類は一切入っていない。
その代わり干し肉が多めになっている。
「いただきます」
うーん、相変わらず麗翠の作る料理は美味い。
元の世界でも、金払ってまで弁当をわざわざ作ってもらっていたぐらいだから当然だが。
高一の秋ぐらいだったっけ……監督に朝も昼も菓子パンとかどんな食生活してんだよ! 上級生を押しのけてエースナンバーを貰っている自覚がお前には足りねえんだよ! って怒鳴られている俺を見かねて、これもマネージャーの仕事だからって言って弁当を作るようになってくれたのが、始まりだったんだよな。
流石にただ作ってもらうだけじゃ悪いってのもあったし、何よりクラスメイトから今日も上野に愛妻弁当か? とか言われている麗翠が可哀想だったのですぐに金を払い始めたが。
「どう? 美味しい?」
片付けを終えて戻って来た麗翠がニコニコしながら、俺の隣に座る。
「美味いよ。なんなら懐かし過ぎて、軽く泣きそうだよ」
「あー……そういえば仁にご飯作ってあげるの二年ぶりか」
「俺にとってのおふくろの味だからな。麗翠の料理は」
「おふくろの味って……大げさだなあ」
麗翠はそこまで言う? と言いたげに笑っているが、決して大げさなどではない。
俺の親は共働き夫婦だったので、ある程度の年齢になってからは親の手料理を食べることが無くなっていた。
いや……年頃になったから親の手料理を食べなくなっていったというよりは、両親共に順調に出世していってしまったため、料理をする時間が無くなっていってしまったので、親の作る料理が食べたくても食べれなかった……というのが正解だろう。
姉貴もいたが、俺が高校の時には既に社会人だったので、夜しか作れないって言われたし。
……正直夜だけで逆に助かったが。
作って貰っていた身分でワガママかもしれないが、姉貴の作る料理に関しては……まあヤバかった。
正直、姉貴の今の彼氏は俺に感謝してほしい。
ド下手くその味音痴が、俺のおかげで凡人程度には料理を作れるようになったのだから。
姉貴には味にうるさ過ぎ! 女の子に嫌われるよ! ってよくキレられていたけど。
「あ、そういえば今日はどうする? 買いたい物や必要な物は昨日全部仁が買ってくれたから、買い物はもういいかな」
「そうだなあ……」
食べながら今日の予定の話になる。
「今日は麗翠の実力が見たいから、
「うん、良いよ。仁がそう言うなら、私は従うだけ」
麗翠は、俺の提案に頷く。
正直、ゆっくりしていられるわけじゃない。
麗翠の実力を把握して、ある程度背中を任せられるほどの実力だったら、ネグレリア討伐は明日にでもやるつもりだ。
そして、ネグレリア討伐をした後は、ロールクワイフ共和国へと行って、
これが、理想なのだが不安要素もある。
……ネグレリアも
麗翠に愛想を尽かして消えた
もしそうだったら俺は……麗翠の前で、佐々木と竹内を殺すことになる。
それを見ても……果たして麗翠は俺の味方でいてくれるだろうか。
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