第81話 久し振りに良い意味で笑顔になれた
眩しすぎて目が開けられない。
でも、やっぱり転移魔法は便利だ。
目を開けなくても分かる。
ボルチオール王国の王都である、カムデンメリーへとあっという間に来ることが出来たということに。
元々カムデンメリーは、ボルチオール王国の中で人口が一番多い都市であることに加え、観光客にも人気ということもあり、相変わらずとても活気に溢れているのが、耳に入ってくる色んな人の声で分かる。
……とはいえ、俺もカムデンメリーに来たのは一回だけだし、ここがどういう街なのかも、全てメリサさんに教えてもらっただけだが。
光が収まったので、
すると久し振りのカムデンメリー光景を見て、思わず口にしてしまった。
「……こういう所こそ王都って呼ぶべきだよな。これだよこれ、この多くの人でごった返す感じ。まさに王都だな」
セトロベイーナ王国の王都である、チェンツオーネとは比べ物にならない。
あっちとは違ってちゃんと道も整備されているし、建物も無駄に高い。
何より、王が住んでいる城が決して浮いていない。
やっぱこれは重要だよな。
「麗翠、ありがとう。転移成功だ。ちゃんとカムデンメリーに来れてるぞ。光も収まったし、目を開けて見てみろよ」
転移に成功しているし、もう目を開けても安全だということを麗翠に伝える。
どんな反応するかな。
ちょっと楽しみだ。
「うわっ……人、多っ。東京みたい」
目を開いて女神の緑を鞘に収めた後、カムデンメリーの光景を見た麗翠は、初めて俺がカムデンメリーに来た時のような反応をしながら、人の多さにドン引きしていた。
逆にこの反応が俺は嬉しい。
元の世界でも人混みとか嫌いで、行列に並んでまで食べるなんてありえない! それなら、コンビニ弁当を私は食べる! とか言っちゃう奴が元々の
「どうよ? ここなら、麗翠にピッタリの防具とかありそうだろ?」
「人、多過ぎじゃない? ああ……オープンキャンパスで東京行った時のことを思い出す」
「オープンキャンパスかよ」
なんで一番最初に東京へ行った思い出で、オープンキャンパスが出てくるんだよ。
もっとなんか色々あるだろ。
「あー今、なんでオープンキャンパスが東京の思い出なんだよ……他にあるだろ……とか思ったでしょ? 東京なんて行かない人は意外と全然行かないんだからね?」
「すまんすまん。顔に出てたか?」
「思いっ切り出てた! ……ふふっ、なんかこんな感じのやり取り懐かしいね」
「そうそう、俺達いつもこんな感じだったよな」
頭を空っぽにして中身の無い会話をしながら、下らないバカみたいな話で笑い合う。
他人から見たら、意味のないことをしてるなあ……と思われるかもしれないが、麗翠とまたこんなやり取りが出来るのは正直嬉しいし、何よりこっちの世界に来て、初めてある程度心を許せる人間に会うことが出来たんだ。
自然と俺も今の麗翠のように笑ってしまうよ。
もちろん、良い意味でな。
この二年間、こっちの世界じゃ、苦笑いや作り笑いに嘲笑と悪い意味の笑顔しかしてこなかったから、そこも麗翠には感謝だな。
「じゃあ麗翠、まずはどこ行く?」
「うーん……最初は、お互い髪をどうにかしよっか……私もボサボサだし、仁はちょっと長いし」
「それもそうだな……じゃあ行くか。あ、カムデンメリーは観光客を狙ったスリが多いから、気を付けろよ?」
「私はお金ほとんど無いから平気。
俺達二人は、元の世界で遊びに行った時みたいに、笑い合いながら街へと向かった。
◇
「はー疲れた……色んな所へ行ったね……」
「ほとんど麗翠にとって必要な物を買いに行っただけだろ。……というか何も持ってなさ過ぎじゃね?」
「あはは……ごめんごめん。でも……良いの? こんなに一杯、色々と買ってもらった上に、こんな高そうなお店にまで連れてきて貰って……」
お互いに散髪を終え、麗翠の防具やアクセサリー、普段着など様々な物を買った後、カムデンメリーで一番美味しい(その代わりにめちゃくちゃ高いらしい)高級料理店に来ていた。
「これからたくさん麗翠には世話になりそうだからな。お礼の先払いみたいなもんだ。それに、単純に俺もこの店で食べてみたかったんだよ」
「で、でも……た、高そう……。こんな所、初めてだからなんか緊張する……」
確かに高そうだけど……俺はファウンテンでサンドラさんと一緒に高級料理店へ行った時に学んだからな。
こういう所の酒やワインを飲まなければ、実はそんなにお金がかからないということを。
ワイン二本で、金貨三枚とか正直ビックリしたよね。
あれだけ色々と料理を頼んで、金貨一枚だったのにさ。
「酒とかワインは飲まないだろ? なら、大丈夫だ」
「うん、元の世界でも飲んだことないし。こっちの世界で二十歳になっちゃったからね」
「それもそうか。はあ……成人式とか、出たかったよなあ……大学にも行きたかったし」
「そうだねえ……」
麗翠と美味しい料理を食べながら、何故俺達はこんな世界に来てしまったんだという、愚痴で盛り上がるのだった。
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