第68話 神堂 皇聖 前編

 パチ……パチ……パチ……パチ……。

 凄いですね! と褒められるというよりは、どちらかというと、へーお前にしては頑張ったじゃん? みたいな上から目線の拍手をしながら現れた男。


 CMやドラマに出ている売れっ子イケメン俳優や、どごぞの国民的アイドルの人気メンバーのようなルックス、それでいながらプロスポーツ選手を彷彿させるようなスタイル。

 ……相変わらず、口さえ開かなければ世の女性が虜に……いや、俺が女だったとしても本性さえ知らなければ、うっかり惚れてしまうだろう。


 「やるじゃねーか? 上様? 見ない間に結構強くなってんじゃん」


 ……ああ、そうだった。

 上様とかいうふざけたあだ名で俺を呼んでたなコイツは。


 「神堂しんどう……神堂皇聖こうせい

 「相変わらず、上様は頭がいいなあ? 俺の事をしっかりと覚えてるなんて。オマエの事なんざ俺はすっかり忘れてたぜ?」


 ……神堂に頭が良いとか言われると腹立つな。

 確かに学校の成績は俺の方が良かったかもしれない。

 だが、神堂は学校の授業は留年するギリギリまでサボっていたし、授業に出ても寝ていた。

 なのに、常にテストの順位は学年トップクラスだった奴に言われても嫌味にしか聞こえねえよ。


 「しっかしオマエもエッグい事するなあ? 毒で動けなくした後に伊東いとうの頭に女神の剣イーリス・ブレイドをぶっ刺して殺っちまうなんてよ? 上様、ご乱心! ってか?」


 人間、しかも知り合いが殺されているのに、満面の笑みを浮かべて、笑い話にしようとしている神堂にご乱心なんて言われたくねえ。

 ……だから、モテないし人が離れていくんだろうな。


 ……ん? 離れていく?

 そういや何で神堂は今一人なんだ?

 確か勇者に選ばれてたろ?

 他のパーティメンバーはどこ行った?


 「おい、神堂。お前の仲間は? 全然見当たらないんだが?」


 気になったので当然聞く。

 誰が誰と組んだかまでは俺も覚えてないし分からないからな。

 聞いておいても損はない。


 「……あ? バカか、上様? 見りゃ分かんだろ?」

 「……つまり、他の三人は放っておいて、今は一人で好き勝手やってると」

 「魔王軍幹部のイグフォノスを討伐すっからテメーらも手伝えって言ったら、逃げてどっか行ったクズ達だぜ? そんなゴミ共信用出来っかよ? 腹立ったから、俺が今いる国の国王のおっさんに命令して、国の人間総動員させてとっ捕まえて今は三人とも牢にぶち込んで絶賛拷問……じゃなくて忠実な下僕にする為に調教中だ」

 「…………」


 調教と言い直せば大丈夫だと何故神堂は思ったのか。

 ただただドン引きだよ。


 ……つーか、やっぱり神堂は異世界でも強いな。

 周りが逃げたって事は、神堂も一人で魔王軍幹部を討伐したって事だもんな。


 ……ハハッ、ヤベえ。

 つまり今の神堂は俺にとって天敵じゃねえか。


 一人で魔王軍幹部を討伐した。

 これが一体何を意味するか。


 女神の黒イーリス・ブラックで、神堂からは女神の加護を剥奪出来ないって事だ。

 剥奪出来る条件は、勇者として不適格かつ俺より弱い。

 この二つの条件を満たしていないと剥奪出来ない。


 神堂はその二つの条件のどちらにも当てはまらない。

 魔王軍幹部を討伐しているから、勇者としても相応しい、そして一人でやったという事は、少なくとも俺と同じか俺以上に神堂は強い。


 いやあ……厄介だなあ……マジで。


 まあ良い……今の所、神堂は敵じゃねえ。

 むしろ、魔王軍幹部を倒しているんだ。

 俺も七幹部全員を倒す必要が無くなったんだ。

 逆に感謝しねえとな。


 「あーそうそう。話変わっけどよ? 上様、岸田きしだ達を見なかったか? 色んな所で好き勝手やってるみたいじゃん? セトロベイーナここに来るって聞いたからボコりに来てみりゃ、上様と伊東が戦ってるからおっもしれーと思って見てて、忘れてたわ」


 神堂の口から岸田という名前が急に出て来て、俺はビビる。

 岸田達をボコりにセトロベイーナへ来た?

 ハッ……アイツらの悪名は色んな国で轟いているんだな。


 「ああ、岸田達ならかなり前に来たぜ。逃げられちまったが、岸田の腰巾着の亜形あがたなら殺したし、後寺原てらはらを捕まえた。そうだ、寺原に会ってくか?」


  ……岸田達が死ぬんなら、殺すのは俺じゃなくてもいい。

 これは、あくまで俺の予想だが神堂なら岸田達を殺せる。


 俺は確実に岸田達を殺したいぐらいには、恨んでるし、それぐらいの事をアイツらはしたと思っている。

 だからここは神堂に協力しよう。


 しかし、神堂は。


 「……上様から逃げた? んだよ、岸田も大した事ねえんだな。じゃあ良いわ……俺の敵は天ケ浦あまがうら達しかいねえってこったな。今の話は忘れてくれ、上様」


 と、急に岸田から興味を無くした。


 神堂の敵……?

 いや……神堂は全方位に敵を作っていると思うが……。


 ……待てよ。

 天ケ浦?


 「天ケ浦って、天ケ浦あまがうらはなの事か? 何で天ケ浦が神堂の敵なんだよ」


 天ケ浦は簡単に言ってしまうと、性格が物凄く良くて家がとんでもなく金持ちで、努力家になった女版の神堂だ。

 俺も別に天ケ浦の事は嫌いじゃない。

 まあ……好きかと言われると……色々面倒臭そうな連中がバックに付いてしまっていたので、付き合いたいとか思った事は無いが。


 けど、敵……?

 不思議に思っている俺に神堂は、何でこんな事も分かんねーの? と言いたげに話す。


 「ああん? そんなの分かりきってるだろ? 天ケ浦はクラス最強の証……女神の赤イーリス・レッドを持ってんだよ。だから、気に入らねえんだ。最強は俺だ。いや、俺じゃなきゃダメだろ上様?」


 ……ああ、なるほど。

 神堂は、イーリスに過小評価されてキレてたもんな。

 何で俺が一番じゃねえんだって。

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